ところで、「92番元素=ウラン」の後には22種もの「人工元素」が記載されていた。だが、自然界に存在する元素92種と22種の人工元素、合計113種の元素の発見(合成)はすべてロシアを含む欧米によるものだった。

 人工元素の合成はきわめて難しい仕事で、それを手にするためには壮大で精密な実験装置や検出機が必要だ。この仕事に携わる若い研究者が育っていることも大事。また、その装置やシステムを開発製造し、常時最上の状態にコントロールする高度の能力をもった技術者、技能者も欠かせない。

 また、新元素を得るまでには、長期間にわたり大電力を使い続けねばならないため、その実験継続を価値ありとする国、そして研究機関の意志と決断、そして予算の拠出も必須だ。そして何よりも、このプロジェクトを牽引していくリーダーが、宝くじの1等に当選するより確率が低い実験を、結果が出なくとも決してあきらめず、成功を信じ続けてチームを鼓舞し続ける資質も求められるのだ。

理化学研究所(埼玉県和光市)の仁科加速器研究センターの地階に設置されている世界最高性能を誇る加速器群(RIビームファクトリー)の全体像。ここでは、周期表にあるウランまでの元素の不安定原子核を「撃ち出す」能力を誇る。(理化学研究所の資料を一部改変)
理化学研究所(埼玉県和光市)の仁科加速器研究センターの地階に設置されている世界最高性能を誇る加速器群(RIビームファクトリー)の全体像。ここでは、周期表にあるウランまでの元素の不安定原子核を「撃ち出す」能力を誇る。(理化学研究所の資料を一部改変)
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RIビームファクトリーの中心部に鎮座する、世界唯一の超伝導リングサイクロトロンの一部。東京タワーの2倍、総重量はじつに8300トン。世界最大、最強の加速器だ。この分野での日本の意気込みを物語る壮絶な実験装置。上部の人の姿で巨大さがわかります。(撮影・山根一眞)
RIビームファクトリーの中心部に鎮座する、世界唯一の超伝導リングサイクロトロンの一部。東京タワーの2倍、総重量はじつに8300トン。世界最大、最強の加速器だ。この分野での日本の意気込みを物語る壮絶な実験装置。上部の人の姿で巨大さがわかります。(撮影・山根一眞)
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 この十数年、「新元素」の合成に鎬を削ってきたのは、ドイツ、ロシアとアメリカの国際共同チーム、そして日本のみだ。「ニホニウム」の登場は、理化学研究所という日本の科学研究拠点の水準が、独、露+米に並んでいることを如実に物語っていることを忘れてはいけない。

 6月8日、「ニホニウム」の名の公開時に、理化学研究所の松本紘理事長が、
 「科学的な推論に基づき、先見性の高い緻密な研究計画のもと、世界最高レベルの装置の開発や実験を、長期にわたり忍耐強く継続されたことに敬意を表します」

 と喜びを語っていた意味も、そこにある。
 (という松本理事長は2014年9月まで6年間、京都大学総長。30年以上前から原子力発電所1基分に相当する100万kWの太陽光発電所を宇宙に建設するプロジェクトを提唱、現在もその実現に情熱を持ち続けているダイナミックな工学者です)。

「3個目」を求め続けた9年間

 さて、私が「113番元素」の合成の詳細を知るために森田さんを理化学研究所(埼玉県和光市)に初めて訪ねたのは、3年半前のことだった。

 森田チームが1個目の「113番元素」の合成(発見)に成功したのは、2004年7月23日。当時の小泉首相が北朝鮮から拉致被害者5人を連れ帰った年だ(5月22日)。さらに、2005年4月2日に2個目の合成(発見)を手にする(愛知万博の開幕直後)。だが、確実に合成(発見)したことを立証するためには、できた後の挙動が異なる「3個目」を作り出す必要があった。

 しかし、達成できないまま7年の日々が過ぎた。
 成果が出せない科学者はどんどん淘汰される時代だ。森田さんも何度かくじけそうな思いを味わったろう。

 そして、ロンドンで開催されていた夏期オリンピック大会の閉会式の日、2012年8月12日、悲願の3個目の合成(発見)を果たしたのだ(確認は8月18日)。
 これで、「113番元素」を日本が命名できる条件が揃った。

亜鉛の原子核を照射、衝突し続けたビスマスの薄膜(周囲の黒い部分)を貼った円盤。一か所に照射し続けると穴があいてしまうため、高速で回転させていた。それでも、一部には穴ができている。(撮影・山根一眞)
亜鉛の原子核を照射、衝突し続けたビスマスの薄膜(周囲の黒い部分)を貼った円盤。一か所に照射し続けると穴があいてしまうため、高速で回転させていた。それでも、一部には穴ができている。(撮影・山根一眞)

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