まず、元素とは何ぞや……から。
 ちょっと頭が痛くなる話かもしれないが。

 「元素」は万物の基礎をなす物質だが、それには「原子」という言葉も使われる。理科に疎い人は、もうここで躓いてしまう。
 実際、この「元素」と「原子」は混同されることが多い。
 「原素」や「元子」と書いてしまう人もいる。
 また、科学史の中でも定義があれこれ変わってきた経緯もある。
 ネット検索での説明や事典の解説もわかりにくく、どうもスッキリしない。

 【元素 element】
 物質を形づくるもっとも基本的な要素。厳密には化学元素(chemical elements)。同じ原子番号の原子によって代表される物質の種別名。(略)元素は物質の究極的な種別を表す抽象的概念であって、具体的な物質名ではないことに留意する必要がある。(以下略)(森北出版・デジタル化学辞典・第2版)

 元素はある物質の概念。
 原子はその物質の本体。

 わかったような、わからないような……。

「日本」と「日本人」に例えると…

 強引なたとえをするならば、「日本」と「日本人」の違い、と考えてはどうか。

 「日本」にはさまざまな「日本人」がいて、各人は性質も体格も異なる。
 しかし、どんな「日本人」であっても、その多様な人々を擁する国が「日本」であることに変わりはない。ここで、「日本」に当たるのが「元素」であり、「日本人」に当たるのが「原子」だ、と。

 福島第一原発の原子力災害で人々を苦しめている放射性物質の代表である「セシウム」を例にとると、こうなる。

 「55番目の元素」である「セシウム(Cs)」には、19種の容貌や性質が異なる18種の「原子」がある(同位体)。「日本」に当たるのが「セシウム」だが、「セシウムという日本人」は19種いる。

 では、19種の違いは何か?
 それぞれの原子の構造が異なるのだ。

 基本物質の本体である「原子」は、1000万分の1mmほどの大きさ(0.1 nmナノメーター)で、その中心にある原子核と周囲を回る電子からなる。
 梅干しの種に相当するのが原子核だが、その大きさは原子の大きさの約10万分の1。物理学者たちは(fm フェムトメーター)などと呼ぶ、とてつもない小ささだ。
 原子核は性質のよく似た「陽子」と「中性子」という2つのモノからなる。ただ、陽子はプラスの電気を帯びており、中性子は電気的に中性である。陽子の個数が原子番号であり、陽子の個数と中性子の個数を足したものは質量数と呼ばれている。

 セシウムでは、
 原子核=55個の陽子+78個の中性子、質量数は55+78=133、
 これは安定したセシウムで「セシウム133」と呼ばれる。

 ところが、原子炉の中の核分裂反応や原子爆弾の爆発によって、陽子と中性子の数がよりアンバランスなヤツができてしまう。原子力災害で人々を苦しめている「セシウム137」は、そういう不安定なヤツの一つで、その原子核は55個の陽子+82個の中性子でできている。

 男(夫)+女(妻)=1:1
 は安定した状態だが、

 男(夫)+女(妻+愛人)=1:2
 はきわめて不安定な状態。

 しかし、愛人が去れば、安定した、
 男(夫)+女(妻)=1:1

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 もっともそのためには、修羅場というエネルギーの大爆発がつきもの。
 「セシウム137」では、安定した状態になるために放出するエネルギー=放射線が人を傷つけるのである(その修羅場が半分におさまるのに30年かかる)。

 「日本」とくくることができる基本的な物質=元素の数は、自然界では92種だ。世界には92ヶ国ある、というのと同じだ。それらを重さの軽いものから重いものまで順に並べ整理したのが、周期表なのだ。

IUPACのウェブサイトに掲載されている周期表。113、115,117、118はまだ記載されていないが、書き加えておきました。(6月8日現在)
IUPACのウェブサイトに掲載されている周期表。113、115,117、118はまだ記載されていないが、書き加えておきました。(6月8日現在)
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 「水兵離別バックの船……」(水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、チッ素、酸素、フッ素、ネオン……)と高校時代に一度は覚えたはずの「周期表」には、自然界に存在する一番軽い元素である水素に始まり、一番重いウランまで92種が記載されている。

 スマホに欠かせないリチウム電池がとっても軽いのは、リチウムを周期表で見ると3番目に軽い元素だからだとわかる。なーるほど、軽いわけだ、と納得。同様に炭素繊維が航空機に採用されているのは炭素が6番目に軽いため、軽金属と呼ばれるアルミニウム(13番目に重い)に代わって使われるようになったのも当然だな、と。金塊がずしりと重いのは79番目に重いためだと、周期表を見れば一目瞭然です。

 という基本物質の体重順リストである「周期表」だが、何度も改訂されてきた。「92番元素=ウラン」の後に新しい元素がどんどん加わってきたからだ。
 もっともそれらは、自然界には存在しないが、人工的に創った新元素なのである。

 たぶん、宇宙創生のビッグバン時や超新星の爆発の際に作られたこともあったはずだが、すぐに消滅して今は自然界には存在しない。新しい人工元素の登場は、「新元素の合成に成功」のほか、「新元素を発見」と言われるのはそのためのようだ(「新元素」を作ることは、壮大な宇宙創生のシナリオを解く鍵になるという期待もある)。

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