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 夜は接待。
 土日はゴルフ。
 日系企業同士でつるんで飲んで契約まとめて万々歳。
 平成も終わろうというのに、まるで「昭和のサラリーマン」だ。

 これが、3年ほど前にタイに進出した日系企業の取材を始めた私の目に最初に映った日本人駐在員の姿である。

 誇張でもなんでもない。取材に出向くと、明らかに二日酔いとわかる酒臭い息を吐きながら現れた駐在員は、「タイでどのように販路を開拓していますか」という私の質問に笑いながらこう答えた。

 「それはね、日本でもう決まっているから。オレらがやれることはそのパイプを守るために接待することぐらいだから」

 いやいや、それだけではないでしょうと尋ねても、答えは同じ。

 「こっち(タイ)でやれることは接待以外に特にないから。やってもあまり効果がないから」

差別意識を隠さない日本人

 この言葉ほど強烈ではないが、同様の趣旨の発言をする人は何人もいた。

 「取引先も日系企業なので、その相手との関係を保つために接待やゴルフは非常に大事です」
 「お酒やゴルフの席で決まることの方が多いんですよ」

 印象的だったのが、そうした発言をする人たちの表情がどれも楽しげだったことだ。

 「けっこうつらいんですよ」「夜のつきあいが大変で」と言いながら、決してつらい様子ではない。むしろ、顔にはうれしさがにじみ出ていた。「ゴルフづきあいも楽じゃないんですよ」とこぼしながらまんざらでもなさそうだ。

 オフィスビルの喫煙スペースに集まった駐在員とおぼしき日本人男性数名が、昨日行ったキャバクラやゴーゴーバーで出会った女性たちの話を笑いながら報告しあっている現場に出くわしたこともある。取材中にそうした話を平気で持ち出す人もいた。タイではそれは「普通」だと豪語する人にも会った。

 いま日本で同じことをしたら大問題だろう。だが、ここタイならそれが笑って許される(と思っている)。経費で酒を飲み、ゴルフに興じ、女の子とも遊ぶ。日本からはほぼ失われてしまったサラリーマンライフがここバンコクには残っている。日本人の男性の多くは本音ベースではこうした生活を送りたいと思っているのかもしれない。だとしたら、タイは「昭和のサラリーマン生活」を送りたい人にとっては最後の楽園に見えた。

 駐在員に取材を始めて驚いたことがもうひとつある。タイ人への差別意識を隠さない人が多いことだ。