オートペイの導入と同時に、川村氏は死角が生まれないよう、各フロアに10数台のカメラを設置した。このカメラの監視業務を任せられる優秀な人材を高給で雇い、定期的に駐車場内を巡回させている。非常時用にフロアに数カ所エマージェンシーコールも備え付けた。結果、全体のコストは下がり、収益はアップしている。

 渋滞の解消にも真剣に取り組んでいる。

 「このままのペースで車が増えたら本当に大変ですよ。車を売る人はその責任を負うべきだと、トヨタモビリティファンドが立ち上げた都市中心部の交通渋滞を緩和するプロジェクトに共鳴して、弊社もその一員として『パーク&ライド』を推進しています」

 「パーク&ライド」は、地方の公共交通機関の駅まで自動車で来たら、駅近くに開設した駐車場に車を駐めてもらい、そこから公共交通機関に乗り換えて通勤してもらおうという試みだ。現在、15カ所で3000台の駐車場を用意している。

 が、すべてが軌道に乗っているとはいいがたい。駅に直結するような駐車場であれば利用者は多いが、100m以上距離があると利用者は極端に減る。シャトルバスで結んでも効果は薄い。タイ人の「徒歩嫌い」は重症だ。

 現在はトヨタのサポートがあるため、利用料も月額1250バーツ(約4000円)で済んでいるが、いずれは2000バーツ(約6400円)に上げられる。値上げ時に利用者はどれだけ残るのだろう。

改革は、まず経験値を上げることから始まる

 そう尋ねると、川村氏はきっぱりとこう言った。

 「いまは経験値を増やす段階なんですよ。車で通って、途中で電車に乗り換えるという通勤方法がはじめてライフスタイルのオプションに加わった。こういう生活もいいなという人を増やすことがこの国にとって大事だと思います」

 巨大交差点のマネジメントも川村氏のミッションの一つ。バンコク市内に渋滞で悪名高いサトーンという大通りがある。その中でも大渋滞の元凶といえる交差点を舞台に、川村氏は壮大な計画を進めている。

川村氏が推進する「交差点マネジメント」の舞台、サトーン交差点。四つ角のビルから連日、5000台以上の車が吐き出される渋滞の名所。

 この交差点の4つの角にはそれぞれ巨大なオフィスビルが並び、すべてのビルの駐車場台数をトータルすると5700台におよぶ。毎日、夕方になるとこれだけの車が一斉に交差点から吐き出されるのだから渋滞が起きるのも当然だ。

 だが、もしこの交差点の四つ角にあるビルに入居するテナントが、他の角のビルの駐車場も利用できれば、事情は変わる。4つのビルはべデストリアンデッキでつながっている。出やすく帰りやすいビルの駐車場に車をとめ、そのビルから自分が勤務するビルにデッキを通って移動すれば、帰宅時の渋滞はかなり緩和するはずだ。

 「それには、4つのビルのオーナーを説得しなければなりません。が、OKの返事をもらったのは1つだけ。でも諦めませんよ。これは街全体にプラスになる夢のパーキングマネジメントプラン。渋滞がひどい他の交差点にも応用できますからね。バンコク都内200箇所で駐車場の満空情報を作りたいという計画もあります。がら空き、空いている、満車の3種類だけの情報でいい。それを見て車を駐車場に停め、電車で移動する人が増えれば、渋滞の度合いはまったく違ってきます」

「儲けることをベースに、世の中に役に立つことを考える」

 川村氏がタイにやってきたのは、「43才で上場企業の副社長になり、富と名誉を手にしたと勘違いして調子に乗っていた自分」と決別し、また一から事業を立ち上げたいと考えたからだ。タイを選んだのは、自動車は多く、駐車場は未整備ながら、駐車場にお金を払う民度があったため。

 「この民度が大切なんです。何より、いろいろ見て回った中でタイは心から好きになれた国だったので、ここで貢献したいと思いました。そして儲けたい。弊社は『YES! プロフィットなカンパニー』。儲けることをベースに世の中に役に立つことを考えて、良かったと思ってもらいたい。で、教科書に載る(笑)」

 儲けたいというセリフをこれほど連発しつつ、社会が抱える問題を解決に導く事業をまっすぐに推進している人を初めて見た。そう、儲けと社会貢献は矛盾しない。同時に実現できるのだ。欲を隠さず、潔くて豪快、かつ生真面目な川村氏なら、本当にタイの教科書に登場するかもしれない。

 川村氏は本気だ。私も本気でその日が楽しみになってきた。