集客力が高いのはケーキコースとパンコース。出来上がりを持ち帰ることができるギフト用途が人気の要因だ。

 「タイ人は料理を身近なものとしてとらえています。その点、ケーキやパンは家で作れないスペシャルなもの。だから料理教室に行ってケーキを作りたい。作ったものをプレゼントしたい。

 そのため誕生日に贈りたいからとその日に合わせて授業を受ける生徒さんも多いです。手作りのケーキを贈ったら喜ばれますからね」

 教室で作って食べたらそれで終わりの料理と違って、パンやケーキは持ち帰りができる。非日常性が高く、見栄えもいい。ギフトとしても「使える」パンやケーキコースがタイで受けるゆえんだ。

 もっとも、ABCクッキングスタジオがタイで順調に生徒数を増やしているのは、単にコミュニケーション好きのタイ人に受けているからだけではない。コースで作るケーキや料理については基本的に日本の内容を踏襲しつつ、現地の志向に合わせて微妙にカスタマイズを行っている。この効果も大きい。

赤やピンクの華やいだ色が好きなタイ人に向けて、菓子コースでは日本のコースの内容を踏まえつつカスタマイズを施した。

 特に重視しているのが視覚的な表現だ。

 「タイ人は赤やピンクのビジュアルが大好き(笑)。ピンク色のクリームや赤いイチゴを飾ったケーキなどは大好評です。以前、赴任していた中国では肉じゃがやお好み焼きといった茶色っぽい外見の料理は人気がまったくなくて、ローカライズの重要性を痛感しました。

 ただ、ローカライズしすぎるとABCらしさがなくなってしまうんですよ。現地に合わせすぎると、正直、垢抜けなくなるので、例えば繊細なデコレーションはそのまま活かすなど、譲れない部分は守り抜いています。最近は日本に旅行したことがあるタイ人が増えていて、舌も目も肥えていますから日本水準をキープすることは必須ですね」

 料理を教える過程では、さまざまな道具が登場する。温度計、オーブン、ブレンダー、ハンドミキサー。これらとまったく同じ製品を自分の家にも揃え、料理教室での体験を自分のライフスタイルに取り入れたいというタイ人も急増中だ。

高級調理器具が売れていく

 「教室で使っている道具と同一の製品をほしい、という要望が多数寄せられています。教室では業務用のアルコール消毒液も使っていますが、これも、同じような製品がほかで手に入るにもかかわらず、同じメーカーの同じボトルの同じラベルの消毒液でないとダメだというんですよ(笑)。いま生徒さんたちが購入できるようにメーカーに打診中です」

 機能がいっしょならどのメーカーでもどんなブランドでもいいじゃないか、とは考えない。料理教室に通うタイ人たちにとっては、少々高くついても、料理教室で使っているモノと寸分たがわない製品であることが重要なのだ。

生徒の95%は女性だが、一部男性の姿も。月収3万~5万バーツ(約10万円~17万円)の20代、30代が中心層だ。

 「前に、香港のABCクッキングスタジオでも同様の事態が起きました。教室で使っている高価なオーブンを自宅にもほしいという生徒さんが続出したんです」

 生徒たちの熱いニーズは家電品売り場に異変をもたらす。それまで売り場の前面に置かれていた安価なオーブンに代わって、主役に躍り出たのはABCクッキングスタジオで使っている高機能高価格のオーブンだ。生徒は喜び、店もほくほく。タイでもそうなる可能性は大いにある。

 だが、ABCクッキングスタジオがタイで事業を順調に拡大している理由はそれだけではない。