マルサ斉藤ゴムのフィリピン事業を買って出たのが、同社でインターンシップを経験したフィリピン人の学生だ。母国に戻った暁には風船の事業をフィリピンで展開したい。まっすぐなオファーを受けて2016年に会社を設立。タイで生産した風船をフィリピンに送り、2017年から販売をスタートした。すでに財閥系のオフィス用品専門店やスーパーマーケットをおさえ、フィリピンのトイザらスともいえるトイキングダムでもまもなく販売がスタートする。売上は2017年だけで400万円、今年は1000万円を超えそうな勢いだ。
問題はキャッシュフロー。GDP7%台で成長しているフィリピンは高度経済成長期の日本のように「作れば売れる」ステージにある。まじめに作って販売さえすれば右肩上がりの売上は間違いない。
だが、日本のように流通側に物流センターがあるわけではなく、各小売店には個別に納入し、しかもラックを自前で用意しなければならない。先行投資が必要だ。
「お金が入ってくるのは後。うちは人も資金もリソースが限られるので、セーブしつつ事業を進めなくてはなりません」
そう言いながらも斉藤氏の表情は明るい。風船の可能性を信じられるからだ。
ゴム風船よ、すべてを包め
「ウガンダにゴリラのマークを印刷したうちの風船を持っていってくれた知り合いがいるんですが、その子達は風船を見るのは初めてだったにもかかわらず、自由に遊んでいたそうです。風船が膨らむのを見て、破裂するんじゃないかと耳を抑えている女の子もいたとか。遊んだ経験がなくても風船とはどういうものかわかるんですね。風船は感覚で遊べるもの。赤とか緑とか原色の風船はアフリカの大地に映えそうじゃないですか。そういう未来もいいですね」
マルサ斉藤ゴムの従業員は計4人、工場にはパートが2人いるだけの超零細企業だが、毎年順調に業績を伸ばし、2017年は2億4000万円を売り上げた。目指すは辞書の風船の定義を変えることと、風船の値段を上げることだ。
「脳梗塞で倒れた父が亡くなる前に『ゴム風船はすべてを包むものだ』と言っていた。それは、中に入れるのは夢とか愛とか形がないものでもいいということだと思うんですよ。価格も一桁上げたいですね。赤なら赤の異なる日本の伝統色を100色揃えて、高級ブランドに提供する、なんてことも目論んでいます(笑)」
緋色、紅色、茜色。染料メーカーの協力のもと、微妙に異なる伝統色を実現する試みがすでに始まっている。

レジャーや娯楽とはまったく異なる別分野で風船を利用する計画もあるそうだ。中にモノを入れても入れなくても、わくわくしたり便利に使えればそれは立派な風船じゃないか。斉藤氏の頭の中で未来の風船構想が膨らんでいる。
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