アニマルラバーバンドの名児耶氏にラブレター

 きっかけは、墨田区が主催している「モノづくりコラボレーション(高い技術力を持った墨田区のモノづくり企業と世界で活躍するデザイナーのマッチング)」だった。輪ゴムを動物の形にした商品「アニマルラバーバンド」で一世を風靡したデザインプロデューサー名児耶(なごや)秀美氏の講演を聞いた斉藤氏は講演終了後、名児耶氏のもとに猛ダッシュ。思いを書き添え名刺交換を申し出た。

 「うちの商品を手に取った方が笑顔になって、その顔を見た自分も笑顔になりたいです。そのお手伝いをしてくださいますか」

 名刺の余白を埋め尽くさんばかりの勢いで書きなぐられた文面から、斉藤氏のただならぬ思いがうかがえる。

 「デザインの力によって伝統的な輪ゴムが世界の4000万もの人に愛されるアニマルラバーバンドになり、MoMA(ニューヨーク近代美術館)にも展示された。そう聞いたら、矢も盾もたまらず、これはもう絶対に一緒に仕事をして、うちの風船も4000万人に届けなければと思いました。あとは行動あるのみ。何がなんでも覚えてもらおうとラブレターを書いたんです」

「膨らませなければいいんじゃないですか?」

 斉藤氏からのオファーを快諾した名児耶氏が最初に提案したのは、丸や三角、四角の形の風船だ。空気を入れれば風船はどうやっても丸くなる。そうはわかってはいたものの、ともかく提案通りに作ってみると案の定大失敗。しかし、名児耶氏は臆することなく斉藤氏にこう告げた。膨らませなければいいんじゃないですか。ちょっとだけ空気を入れてみましょうよ――。

 「びっくりしましたね(笑)。空気を入れてこそ風船だと思っていましたから。その発想に脱帽しました」

 膨らませない風船を思いつく名児耶氏も名児耶氏なら、それを否定せずに「脱帽」と受け取る斉藤氏も斉藤氏だ。こうした非常識な感覚の協奏で2012年に誕生したのがマルサバルーン。世にも珍しい風船の数々だ。

 人なのか人形なのか犬なのか。正体不明の風船や体型変化が著しいバレリーナ型の風船など、これは本当に風船なの? と問いかけたくなるラインナップは、先代の頃からつきあいがあった銚子にある日本唯一の手作り風船工場によって形になった。

空気をいれるとコロンコロンと揺れる「マンマルユー」。どことなくユーモラスな表情が愛らしい。

 「風船は口の部分を持って型を液状のゴムに入れて引き上げて作りますが、機械では耳をつけたり手をつけたり、動きのある形はできません。形に制約があるんですね。でも、手作業であれば細かな調整ができるし、色付けも何度もできる。中を赤、外側を青色に染めて、膨らませたら紫色になる『ヘンシンバルーン』のような風船も可能なんです」