2015年には、TTETが向かうべき方向を明らかにした「2025年ビジョン」を作成した。このビジョン作りに加えて、現在、ビジョンと人事評価制度をひも付ける業務をサポートしている人事・組織コンサルティング会社アジアン・アイデンティティの代表取締役・中村勝裕氏は、TTETをこう評する。

組織を再構築した上で、これから10年後の目指すべき方向を示したビジョン「Mobilizer of Human Driven Communication」を策定した。

 「タイ人と日本人の融合を図ろうとする強い意志を感じます。これまで他の日系企業で、タイやタイ人へのリスペクトのなさが立ち居振る舞いから出てしまっているケースをたくさん見てきました。その中では出色です。日本の企業はここタイで事業を営んでいるわけですから、現地をリスペクトすべきだし、そのためにはこちらから胸襟を開かないといけない。その点、TTETは伊藤さんも楠本さんも本気度が違いますね」

アジアン・アイデンティティの中村勝裕氏。タイ人スタッフとともにアジアのローカルに根ざした人材組織コンサルティングを手掛けている。

 そう、組織改革を進めるTTETのマネジメント層は常に「本気」だ。タイ人の本音に触れたい、溝をなくしたいと、伊藤氏も楠本氏も会社主催のクリスマスパーティでは本気で臨み、衣装を揃え、土日に内緒で集まって練習を重ねて、タイの人気歌手の歌に合わせて踊りを披露し、社員から大喝采を浴びた。「サバイ」(気持ちいい)で「サヌーク」(楽しい)なことに目がないタイ人はこうしたイベントを心待ちにし、精一杯楽しむ。そこにお義理で加わっても白けられるだけだが、真剣に参加すれば社員のトップを見る目はがぜん変わってくる。

 イベントにも常に本気だ。クリスマスパーティでは、衣装を合わせ、練習を重ねて本番に挑み、タイのスタッフから喝采を浴びた。

 スタッフが地元で結婚式を挙げるとなれば、伊藤氏は現地に出向き、式にも参加。従業員との食事会も頻繁に行い、信心深いタイ人が「オフィスにピー(幽霊)が出る」と苦情を申したてれば、お坊さんを呼んでおはらいをし、社員の要望に応える。小さなことから大きな改革まで本気の姿勢に変わりはない。

タイ人は信心深い。お坊さんを呼んでのセレモニーはタイで事業を営む上では必須である。

 中村氏は言う。

 「日本人が、仕事をきっちりやってくれるどうかを重視し、人をタスクベースで信頼するのに対して、タイ人は関係性ベース。人間関係を作らなければ、いくら仕事で規範を示しても信頼されない。すごくベタな話ですが、お昼ごはんを一緒に食べるとか、家族のことを話題に出して『お母さんは元気?』と声をかけたり、自分も家族の話を共有したりして、人間関係を作っておかないと信頼できる人だとは見なされません。食事会とか社員旅行を施策ベースで取り入れる日系企業は多いのですが、そこにメンタリティがついてこなければ意味がない。人の気持をつなぐことが大切です」

人間関係からスタートできますか?

 2016年、TTETはデンソーと手を組み、別会社を設立する。TTETのエンジニアが優秀なので囲い込みたいというオファーを受けてのチャレンジだ。新会社にはこれまでデンソーのプロジェクトに関わっていたメンバーを出向させ、新卒のエンジニアをどんどん募っていくという。「特に変わったことはしていない。当たり前のことを愚直にやっただけ」(伊藤氏)の真剣本気の組織改革は顧客にも評価され始めている。

 タイ人幹部を育てたい、いずれはタイ人に任せたい。そんな目標を掲げる日系企業は多い。だが、人間関係を築き上げるところからスタートしているケースはどれぐらいあるのだろう。

 「あなたたちは私たちに敬意を払っていますか? どれだけ本気ですか?」

 日系企業は常にタイ人にこう問いかけられている。この問いに真摯に向き合い、信頼関係を築き上げる努力を惜しまず、愚直なまでに当たり前を繰り返した企業だけが、成功の果実を手にすることができるのだ。

4月のソンクラーン(水掛け祭り)では丁寧にセレモニーを開催した。タイの文化への敬意の表れだ。