「以前はソフトの受託開発といっても、やっていたのは本社が設計したソフトの検査だけ。せっかく大学を出てプログラミングができると思ったら、ドキュメントのチェックや単純な検査ばかりで、これでは知的好奇心が満たされないと離職が増えていた。そこで、仕事を構造設計や単体設計、コーディングといった上流にも広げました。いまでは、検査設計も手がけています。少し先を見て新しいソフトの開発手法やツールを先取りしたり、日本から講師を呼んで『こんなソフト開発もできるよ』とセミナーも開くようにしました」

 退屈な業務がなくなったわけではない。だが、もともと優秀な大学を卒業した優秀なエンジニアたちだ。彼ら彼女らの知的好奇心を刺激する仕事があれば、会社に留まりたくなる理由ができる。

2012~13年当時、風通しが悪かった組織が、思い切った改革で生まれ変わった。

 伊藤氏は、従業員に自覚をもたらす取り組みにも着手した。

 「顧客の日系企業にヒアリングして、競合はどれぐらいのコストで、どのぐらいの時間で仕事を受けているのかをリサーチしました。さらに、プロジェクトごとにコストと生産性を掛けあわせて、競合と比べた場合の我々の仕事をお客さんに数字で評価してもらった。この結果は、自分たちの実力を分かってもらうためにすべてエンジニアに見せています。中には満足度40%という悲惨なプロジェクトもありましたが、お客さんからのシビアな評価を知ることで、彼らも自分たちは残業をして一生懸命やっていたのに実は競争力がなかったことに気がついてくれました」

オンサイトで「日本の行動規範」を身につける

 顧客からの評価をもとに、伊藤氏は思い切って受ける仕事の量も減らしている。これまでのように片手間ではなく、勤務内に人材育成のための時間を確保することが急務だと考えたからだ。

 「仕事を絞ることについては、正直、日本側の営業とはもめました。『せっかくお客さんのところに通って必死で取ってきたのに仕事を断るとは何だ』と非難されましたが、無理をして受けても納期が間に合わなかったり、品質に満足してもらえなければお客さんに迷惑をかけるだけ。そう言って断りました」

 仕事量が減れば、1対1で丁寧に教えられる体制が整う。OJTという便利な言葉を使って、実は放任でしかなかった現場が変わり始めた。

 さらに、社内での教育に加えて、日本の客先にエンジニアを派遣するオンサイト(常駐)も増やしている。

 「語学はもちろんですが、日本の行動規範が身につく効果が大きいですね。日本のお客さんの期待する動き方、働き方、考え方が体で理解できるようになる。納期が差し迫ると品質テストが済んでいないのにもかかわらず、つい焦ってテストをせずに納品していたタイ人が、クオリティファーストだということ、納期に遅れるのであれば、いま何ができていて何ができていないかを報告することの重要性を知り、本当の意味の顧客目線を身につけて帰ってくる。プロジェクトのコアメンバーとして皆を引っ張っていけるようになるんです」(伊藤氏)

 もうひとつ注目に値するのが、同社の日本語教育の体制だ。