オフィスには、タイと日本の「融合」を目指す行動指針を掲げ、日常的な意識づけを図っている。

 
 当時のTTETを覆っていたのはこんなスパイラルだ。

 離職者が多いので、人材を育成しようにも人手が足りない。
 そのため開発力は低下し、生産性は落ち、バグが多発するなど品質にも問題が生じる。
 問題を解決するための長時間勤務が必要となり、残っているスタッフの負荷が増大。
 これに嫌気がさして、また人が辞めていく。

退職者にも繰り返し「なぜ辞めたの」

 スパイラルを止めるにはまず、問題の根っこを突き止めねばならない。伊藤氏は人事総務部のゼネラルマネジャーを勤める楠本浩史氏とともに、タイ人マネージャーへのヒアリングを行った。現マネージャーだけではない。退職を決めたマネージャー、すでに社を去ったマネージャーも対象だ。

 「何が不満なのか、どうして辞めるのか、なぜ辞めたのかと繰り返し聞きました。1対1では本音をなかなか言ってくれないので、4、5人のチームに分けた。それでも借りてきた猫みたいに最初は話をしてくれない。『職場環境や上司のマネジメントについてどう思う?』と優しく聞いていくうちに、誰かが口火を切り、ようやく本音が出てきた格好ですね」

 面白みを感じられない仕事へのいらだち、日本人とタイ人との意思疎通の難しさ、マネジメント層と現場とのギャップ。上下関係を絶対視し、上司に従順なタイ人が、その場では「はい」と答えながら、実は腹落ちしていない実態も浮き彫りになった。

従業員214人中、日本からの駐在員は2人。残りは現地採用(うち日本人20人)。タイ人と日本人の融合なくして事業は進まない。

 ヒアリングを重ねた上で、伊藤氏は豊田通商に戻り、こう告げた。「『今のままではタイでソフト開発をしても意味がないので止めたい、思い切って違う仕事をします』と非常事態宣言をしました」

 すると日本の上司からは「『慌てるな』『組織を絞ってもいいから足腰から強化し直してくれ』と言われた。それを受けて、今度はマネージャー職を全員社長室に集めて、『現状のやり方ではもう将来がないと思ってくれ。半年以内にやり方を変えてくれなければ撤退。変えてくれれば事業継続だ。これからはあなたたちが商売を引っ張っていくんだ』と危機感を煽りました」

 当時の状況を楠本氏はこう語る。

 「特にソフトウエア開発部門では不満が多く、日本人とタイ人のどちらもがナショナリティという言葉を使って問題を一般化していました。丁寧に教えないと、タイ人はひるんでしまう傾向がありますが、日本人は『わからなかったら聞いてきてね』『できなければ聞いてくればいいのに』という態度をとりがち。でも、タイ人からするとプライドもあるし、そもそも上司が怖いから聞きにいけないんですね」

 社員が萎縮し硬直した現場が、「日本人だから」「タイ人だから」という理由のもとにさらに風通しが悪くなっていた。スパイラルを断ち切るために、伊藤氏はエンジニアのモチベーションを上げようと仕事内容の見直しに着手する。