「商品の入れ替えの手間があまり発生しない分、什器にデザイン性が求められます。日本も最近は少し変わってきましたが、タイでは奇抜なデザインが好まれるんです。日本だと効率的に商品を並べられる長方形の棚が一般的ですが、タイでは丸い棚がよく使われます。商品をレイアウトしづらいし、積載効率が悪いんですけどね。パッと見で来店客の注目度が高い什器が小売店に人気があるのです」(松本氏)。

 デザインへのこだわりは、とりわけ高級スーパーマーケットでは顕著だ。店舗ごとに個性を出したいという顧客の要望に応えて、同社は優雅な曲線を備えた什器につや消し塗装を施し、照明で陳列した商品を浮き立たせる什器を納入したこともある。

百貨店第2位のザ・モール・グループが展開する「グルメマーケット」も開拓。日本でいうところの成城石井か紀伊国屋である。
百貨店第2位のザ・モール・グループが展開する「グルメマーケット」も開拓。日本でいうところの成城石井か紀伊国屋である。

 効率よりも第一印象が重視されるため、日本のお家芸ともいえる効率追求型什器の需要はタイではあまり強くない。例えば、棚に塗った特殊な塗料の効果で商品が自然に手前へとスライドする什器。価格的には多少高くなるものの、スタッフが前出しする手間が必要ないため、日本ではオペレーションを省力化できると好評を得ている。

「滑る」棚より、「ひっかかる」棚

 ところが、タイでは見向きもされない。

 「『面白い』と興味を持ってくれても、値段を聞くと『高くなるんだったらいらないよ』とあっさり却下されます(笑)。人件費が安いので、什器で省力化を図る必要がない。手間がかかるなら、その分、人を雇えばいいと考えるんですよ」(井上氏)

 これは、タイで小売店や飲食店を見ればうなずける指摘である。日本なら3人でオペレーションしていそうな店を、タイでは5人、いや、10人近い人手で切り盛りしている。日本人には「ムダに人が多い現場」に映るのは、省力化を日本ほど追求する必要がないからだ。

微妙な曲線が印象的なグルメマーケットの什器。要望に応えて、つや消し塗装を施した高級タイプの什器を開発した。
微妙な曲線が印象的なグルメマーケットの什器。要望に応えて、つや消し塗装を施した高級タイプの什器を開発した。

 季節に大きな変化がなく、オペレーションの手間を考慮せず、効率よりも「目立ってなんぼ」とばかりに外見を重視するタイ。棚のフェイス(棚の前面に陳列された商品の面)数を緻密に計算する業務用ソフトまで総動員し、人手をとにかく軽減したいと効率化に心血を注ぐ日本。求める什器の違いを把握し、現地のニーズに応えたデザインがタイでの成功には欠かせない。

 テスコロータスとトップス。タイ小売業の大きな勢力に食い込んだオカムラが次に狙うのは、日本で得意とするドラッグストア業態だ。

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