「価格がそう高くないからか、口コミで評判が広がり、毎月7~8人が入学しています。もっとも、スタッフとして働いてくれる人はそう多くない。タイの人は独立志向が強く、商売をするなら自分の看板で始めたいと考える人が多いからです」

 一国一城の主を目指す人の多さは想定外だったが、それでも同社がアカデミーを続けるのは、やはり人材確保には有効なことと、この事業に社会的意義を見出しているからだ。

 「学歴がない地方の女性でもアカデミーに来ればネイルのスキルが身につき、生計を立てられる。田舎に戻って『Nail it ! TOKYO』をやってもらってもいい。そうすればこちらとしてもハッピーですからね(笑)」(河西氏)。

 厳然たる“階級社会”のタイでは、学歴がない地方出身者の選択肢は限られる。水商売や風俗で働けば高給も夢ではないが、そうでなければ待遇は極めて悪い。だが、「Nail it ! TOKYO」で働く道を選択しアカデミーで1カ月学びさえすれば、その後1カ月にわたる店舗での研修中にも給料が支給される。当座のお金がなくても学ぶことができて、その後の就職口も約束されたアカデミーは、貧しい家庭出身のタイの女性に自活の道を提供する貴重なオプションといえるだろう。

 「中には、働きますといっておきながら技術を身につけたらさようならという人もいますが(笑)、まあそれはある程度仕方がない。バンコクには不健全な仕事がたくさんあります。でもネイリストはきついとはいえ健全な仕事。自立の手段として活用してもらえればこんなにうれしいことはありません」(河西氏)。

表彰パーティは大盛り上がり

 スタッフのモチベーションと定着率アップを図るため、2017年からは新たに表彰制度を取り入れた。1月にホテルで開くニューイヤーパーティーでの表彰式に向けて、同社はミステリーショッパー制度を導入。11月の中旬から12月の頭にかけて、電話での受付に始まり、カウンセリングの内容、店の清掃、接客態度などを覆面調査員が店を実際に利用して採点する制度だ。

毎年12月に実施している「サービスエクセレンスアワード&パーティ」。ネイリストが心待ちにしているイベントだ。
毎年12月に実施している「サービスエクセレンスアワード&パーティ」。ネイリストが心待ちにしているイベントだ。

 ネイルに要する時間を事前にちゃんと伝えていたか、スタッフ同士のコミュニケーションで不快に思うことはなかったか、客の爪の状態について尋ねているか、ネイルの工程1つひとつで痛くないか否かを確認しているか等など、採点の項目は多岐にわたる。各項目のトップ3の店舗や売り上げや客単価、客数で好成績をおさめたスタッフ、MVPの受賞者が発表されるとパーティ会場は大盛り上がりだ。

次ページ 現実は厳しい、でも人生は変えられる