しかし当時、BTSの駅にはベーカリーやドリンクショップ、文具店など物販の店はあっても、美容関係の店はゼロ。前例がなく、可燃物を使用するネイルサロンの出店要請はあえなく門前払いされたが、諦めることなくコネクションも駆使しつつ交渉を続けた結果、1カ月後に交渉成立。フェイスブックで経験者を募集し、ワークショップによる実践訓練も施して、2015年10月に1号店のチョンノンシー駅店をオープンした。

利用客の多さからいえばもっと良い駅があったが、当然家賃も高くなる。だが、チョンノンシーなら駅周辺にオフィスが密集し、家賃も予算内。BTSの車内でビジネスの芽をつかんでから半年で、Beauty Itは1号店のオープンにこぎつけた。なにかにつけて決断が遅いとタイで揶揄されている日系企業としては異例のスピードだ。
「Nail it ! TOKYO」の価格は単色のジェルネイルが200バーツ(約700円)、2、3色のジェルネイルが250バーツ(約900円)。ネイルにうとい方のために補足すると、ジェルネイルとはジェル状の樹脂を爪に塗り、専用のライトで固めて作る人工爪ネイルのこと。日本のネイルサロンで単色ジェルネイルを頼めば安い店でも3000円はかかる。平均すれば5000円以上だろうか。それと比較すると「Nail it! TOKYO」の値段は激安。タイのネイルサロンとしても安価な部類だ。荒川氏は言う。

「目指すは『QBハウスのネイルサロン版』。完全にタイ人を対象にし、ファーストネイルの場所として定着させていく計画です。日本人向けのサービスならわざわざ海外でやる意味がない。日本人に特化した店で長くビジネスを続け成功している店は少ないですからね」
1号店は予想以上の成果をあげた。問い合わせの電話は終日鳴り止まず、わずか3席しかない小さなスペースは満席続き。店の前には行列もできた。
駅出店で広告費をかけずに知名度アップ
客から高く評価されたのは狙い通り、利便性と手軽さだ。駅にあるから便利。オフィスの近くで利用しやすい。価格が安いから続けやすい。ピンクを基調にした、いかにもタイ人好みの愛らしい外観や、開放的な印象を与えるガラス張りで清潔な店作りも集客に一役買った。
順調な滑り出しを受けて、「Nail it ! TOKYO」はBTSの駅を中心に出店を続け、すでに主要駅はほぼ網羅した。百貨店やオフィスビル内への出店も始め、2017年からはFC展開もスタート。店舗数は現在19店に達している。
目につく場所に店があるため、「Nail it ! TOKYO」の知名度は抜群だ。フェイスブックのフォロワーは5万人弱に達し、できあがりの写真をInstagram(インスタグラム)に投稿する女性も多い。インスタの写真を見て来店しオーダーする客も増えている。広告費をかけずにBTS駅にある店を広告塔として活用する策は見事に当たった。
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