「自ら手を動かしました。ナンバーをつけて写真を100枚ぐらい撮影し、掲示板にも貼りました。でも、最初の2、3か月は動きはなかったですね。長年この状況でやってきているので、皆、現状が当たり前だと思っていたからです。イスを出したら出しっぱなし。ゴミもそのまま放置するし、要るものと要らないものを分ける習慣もない。それでも半年ぐらいで変わってきました。人は本当に変われるんですよ」

“頑張らせなくちゃ”はNGです

 今年の4月には、従業員がペンキ塗りを買って出た。消火器や危険ゾーンは目立つように赤く塗り直し、工場の入り口にはセメントを流して段差をなくした。

 「私は一切指示していません。彼らが自らやろうとするようになったんです。工場を整理・整頓・清掃を徹底すれば気持ちがいいし、安全に働けることがわかってきた。そのせいか、受注も増えてきました。クリーンルームを作って、消毒液のキャップを作る新規事業が軌道に乗っているのも、従業員の意識が変わってきたからでしょう」

 きれいな環境で働いた方が気持ちがいいに決まっている。安全に作業ができればモチベーションも上がり、効率もアップする。滝口さんは辛抱強く好循環の発火点に火をつけたのだ。

 滝口さんは2004年から2010年までパナソニック向け精密プレス部品や金型製作を行うコトブキTECタイランドでも社長をつとめていたが、「日本の工場よりもきれいに維持されている」という評判が日本まで轟き、パナソニックの社長がわざわざタイまで足を運んで視察に来たこともあるという。滝口さんが前職でタイセイプラスタイランドの社長に就任したのも、評判を聞きつけて工場を視察した親会社からスカウトされたからだ。

 いくつものタイの工場で力を奮ってきた滝口さんはタイ人をこう語る。

 「タイ人は素直。言われたことはやるんです。でも、一度言っただけではダメ。何回も言うこと。忘れかけたころにまた言うのが大事(笑)。ただし、指導しなくちゃ、教えなくちゃ、頑張らせなくちゃという姿勢ではダメですね。彼らはバカにされたように感じるので、自分が孤立するだけ。出向する日本人の多くが失敗するのはこのパターンです。タイ人をけなさず、ワット(お寺)に行くとか、タンブン(功徳)をちゃんとするとか、タイ人に歩み寄ることも必要ですよ」

 滝口さんが指導して歩いた先は魔法の杖をふったかのように、工場が美しくなり、生産性が上がっていく。タイ人を信頼し寄り添いながら粘り強く――をモットーとする年季の入った指導のたまものだ。

タイでは珍しいトヨタのTier1企業に育てる

 「我が社を助けてほしい」

 そんなストレートな求愛を受けて、12年前にプラスチック成形メーカーのBKFのアドバイザーに就任し、昨年末まで勤務していたのが佐藤勝康さんだ。

 1961年に日立(現在の日立化成)に入社し、定年まで勤め上げた佐藤さんは、タイの児玉化学から新規事業を手伝ってほしいという依頼を受け、来タイ。その後、いくつかの日系部品メーカーや金型メーカーのカイゼンアドバイザーを経て、BKF及び関連会社のアドバイザーに就任した。

 同社は、タイの企業としては数少ないトヨタのTier1企業(トヨタに直接納入する一次サプライヤー)。トヨタスタンダードに見合う生産体制を整えてきた中心的人物がほかならぬ佐藤さんだ。

 プラスチック部門、ダイキャスト部門の責任者であるMD(マネージングディレクター)のチャワットさんは振り返る。

 「我が社の顧客である日系企業のニーズを満たすためには佐藤さんの力を借りたい。そうすれば、必ず我が社はもっと発展できると確信して説得しました」