安全な工場は、結局は生産性が高くコストも安い
「現場を目にすると、生産性の高い工場というのは安全性を最重要視していることがよくわかるんです。安全が確保されていないと、事故が起きたり、けが人が出たりして、ラインが止まることになり、補償などもろもろを考えれば、結局高くつく。タイでは安全性が軽視され、ケガ人が出たらケガをした方が悪いとされている工場がまだ多いのですが、安全を守れない会社でモノを作ってはダメなんですよ」
トヨタ時代に安全重視のポリシーを徹底的に叩き込まれた中村さんは、会社のデスクに日数を示すデイカウンターを置いている。示された数字はただいま2679日。TTスチールプロセッシング時代に起きた事故で従業員がケガをしてからの日数だ。
「保全従業員がクレーンの点検中にワイヤーの巻き上げドラムに指を巻き込まれて、指を2本失う事故が起きました。従業員がケガをしたら、会社が安全を確保できなかったということ。心から謝罪をしないといけない。もし従業員がルールを守らずに事故が起きたとしたら、守れるルールを作らない会社が悪いんです」

このデイカウンターがストップすることがないように、タイ人が心から納得し、守れるルール、守りたくなるルールを作り、安全な環境で品質の良い製品の効率的な生産を目指す。中村さんの契約は1年ごとの更新で、最長5年。残りは4年。65才の挑戦が続いている。
汚くて危険な工場を8カ月で変える
東北パイオニアに入社後、出資している協力工場のタイ進出を機に社長としてタイに赴任。以後、3社を経て、2016年からタイのローカル企業である「エンジニアリングプラスチック」のシニアアドバイザーをつとめているのが、滝口栄嗣さん(65才)だ。

整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)、いわゆる5Sを徹底して追求し、安全確保につとめてきた滝口さんは、取材時に面白い資料を見せてくれた。
会社の玄関や工場周辺で3S(5Sのうち、整理・整頓・清掃の3つを抜き出した活動)を決行した前と、決行後8か月たってからのビフォーアフターを写真入りで示した資料だ。これを見るといかに工場が美化され、従業員が活動しやすくなったか、逆に言えば、以前の工場ではどれだけ危険な物資や状況が放置されてきたかがよくわかる。
玄関へと至る道沿いに放置されてきた木材のガラクタやゴミが消え、工場前の不要なダンボールや木製パレット、ホースが撤去され、錆びたドラム缶も一掃された8か月後の工場周辺は見違えるほどの美しさだ。危険区域を示す鉄柵の赤いペンキもしっかりと塗り直され、「危険」とタイ語で大きく記した大きな看板も掲示されている。




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