「調べてみると中国ではわずか10年の間にエコノミーホテルが大きく成長し、業界を一気に変えてしまったことがわかった。これは自分がやらないと他人にやられると思い、居ても立ってもいられなくなったんです(笑)。ちょうどその頃、以前からの知り合いである投資家の諸藤周平さんと数年ぶりにシンガポールで再会し、『いっしょにホテルをやりましょう』と意気投合しました」

 諸藤氏は東南アジアを舞台に様々な産業創出に取り組んでいる投資家。雌伏8年。これ以上ないパートナーを得て、2015年5月に松田氏はNewlegacy Hospitalityを設立。CEOに就任した。あとはホテルを実際に立ち上げるだけだ。

2人部屋が当たり前、そんなの誰が決めたのか

 家族でも泊まれるホテルにしたいという発想は松田さんの経験に由来する。

 「我が家は子ども2人の4人家族。子どもが小さいときはエクストラベッドを入れれば済んでいましたが、大きくなるとそうも行かない。2部屋取ると料金は倍になるし、スーツケース1つで移動している我が家には不便です。そもそもホテルサイトで『宿泊者4人』で検索するとヒットしないのもおかしいですよね」

 松田さんは「ホテルの部屋は2人で利用するのが当たり前、と、いったい誰が決めたのか」と言う。

 「運営する立場から言っても、4人部屋は2人部屋よりも(部屋の)単価が5割以上がるんですよ。8割以上上がることもある。4人部屋は費用対効果が高いんですよ」

 利用者視点と経営者視点。2つの視点から導き出した答えが、3~4人の家族連れや女性グループが安心して泊まれて、1階のカフェではスタッフや地元住民とも交流できるような新しいコンセプトのホテルだ。

シングルベッド2台に二段ベッドを入れた4人部屋。部屋の清潔さはレビューでも定評がある。

 全体のブランディングはシンガポールの企業に依頼した。羊のロゴを採用したのは「よく眠れる」イメージがあり、どの国の人に聞いても印象が良い動物のため。ネーミングはクラウドソーシングのランサーズで募集をかけた。当選報酬は11880円。506件集まった中から選ばれたのがココテルだ。

 「ホテルって◯◯グランドとか◯◯シティやパシフィックとか、つまらない名前のところが多いですよね。ありがちな名称にはしたくなかった。音感がシンプルで覚えやすく発音しやすい。コンセプトに合った名称に決まったと思います」

公共交通が充実したバンコクはホテル向きの都市

コンセプトを練り上げながら物件探しも始まった。

 1号店としてバンコクに照準を合わせたのは、ホテルの数が多いからだ。アジアに強いホテル予約サイト・アゴダで検索すると、バンコクだけで2600軒のホテルがヒットする。ホテル数の多さは観光地としてのポテンシャルの表れ。ライバルも多いが、それ以上に観光客が右肩上がりを続けているバンコクは追い風のマーケットと判断した。

 加えて、バンコクには公共交通機関が発達しているというアドバンテージもあった。BTS(高架鉄道)とMRT(地下鉄)が走るバンコクにはホテルに向いた立地が多いのだ。

 一方、オペレーションが悪いため、本来の価値を発揮できていないホテルも少なくない。マーケットとしての有望性と競合との戦いやすさ。2つを備えたバンコクで物件探しを始めた松田氏はラッキーとしか思えない物件に遭遇する。

 「オーナーがオフィスビルをホテルに改装していた物件で、なんと我々のコンセプトにそっくり。内装はほとんど手を入れずに済みました。客室もほぼそのまま。壁に羊のペイントをしたぐらいです。細かいところはいろいろありますが、フレームとしてはできあがっていてテレビも電話も付いている。神がかり的な出会いでした」

 最寄り駅からやや歩くこと(徒歩10分)、客室数が40と少なくはあったが、コンセプトがほぼ同じの新品居抜き物件を前に迷う必要もない。契約後、必要な工事を済ませたココテル1号店は2016年2月にオープンを迎えた。