果たして、医療費への効果も確実に出ている。

 2014年2月から2015年1月末の期間中、Marimo5の食育プログラムを受講したタイ人従業員65名の医療費データを前年と比較したところ、医療費未利用者ならびに医療費が対前年で減少した人は47人。全体の72%が減少した。

 従業員のモチベーションに与える影響も大きい。RISTではモチベーションサーベイを定期的に実施しているが、この2年間で「ここで働いてよかった」と回答する社員の数が2桁アップしたからだ。

 松井副社長は照れながらこう語る。

 「これは素直にうれしいですね。従業員のためにやってきたことが社員の心に響いているようです。社員を愛することは、やっぱり大事。それによって良い製品が作れて、世の中の役に立つ。そうして社員もまた仕事にやりがいを見出してくれる。日系企業がタイで事業をして、それがタイの人々のためになる正の循環を作っていきたいですね」

司会進行の管理栄養士の男性が手にしているコップの中身は、タイ人が一般的に1日で摂取している砂糖。あちこちで驚愕の声があがる。

 今後、RISTの取り組みはモデルケースとして、他の在タイ日系企業、さらには東南アジアの他の国にも応用されることになりそうだ。

 タイライフの佐藤氏が言う。

「私が訪問している日系企業に、よく『ロームさんはどんな風に健康づくりを進めていますか』と聞かれるので、隠さず率直にお話しています。すると、『時期を見てうちも段階的に取り入れたい』と言われるところが多いんですよ。ほとんどの会社の医療費は右肩上がりですし、単年度だけではなく、中長期の目で見てもらい、従業員の意識の改善につながっていけば、このプログラムは有効だと確信しています」

ここまで手間ひまかけるワケ

 手間ひまかけて実践している健康づくりのプログラムを「優良企業のロームだからできる」と切り捨てず、「ロームの事例に学びながら着実にステップアップしたい」と考える企業が増えているのは、一つにはタイ人従業員同士の情報交換が盛んだからだ。

 「従業員の健康」をお題目に終わらせず、実際にアクションを取る会社なのかどうなのか。リアルな話がタイローカルの口コミを通して伝わっていく。タイ人の口コミパワーは強力だ。内容次第では従業員の定着率や採用面にも影響が出る。健康な職場環境づくりは経営に直結する課題なのだ。

 Marimo5を率いる大和氏は海外展開に意欲を見せる。

 「この取り組みは、それぞれの文化や国民性を踏まえながら、アジアの他の国にも水平展開していきます。日本ですか? タイと同じ形では難しいでしょうが、ブラック企業と言われるような、働く人たちの人権を無視する苛酷な労働環境があるので、一石を投じる試みも必要かもしれませんね。でも、まず最重要地域はタイ。ロームさんのように従業員の健康を想い、第一歩を踏み出す会社を多く作ることが大事です」

「タイの人々の健康増進」を掲げる3人の活動は、今後タイのみならず、他のアジア諸国にも影響を与えそうだ。

 理想を熱くまっすぐに語り、行動する3人の姿は、「タイの人々の健康増進!」を旗印に戦う三銃士のようだ。社員が健康になり幸福感が強まれば、医療費の抑制につながり、モチベーションまで上がって、良いことだらけ。その合理性は多くの日系企業に刺さりそうだが、大和氏はきっぱりとこう付け加えた。

 「医療費を抑えられるという合理性はビジネス上の利点です。でも、何より大事なのは会社の価値観、経営ビジョンに社員の健康と幸せを組み込むこと。そして、それを社員にメッセージとして送り続けること。それがなければ続きません」

 三銃士は甘くない。