タイは車産業が発展しているため、車で使用するプラスチック樹脂やウレタン、塗料やインクなど、化粧品に必要な資材が豊富に揃い、入手しやすい。原材料を安定して調達できる利点を生かし、欧米のメーカーはタイを化粧品の生産拠点として貪欲に活用している。ミロットラボラトリーズの生産量の10~15%は日本向けの製品だが、多くは欧米のメーカーの製品で占められ、その数は伸びる一方だという。

 「欧米の企業がここで生産した洗顔料やヘアケア製品は問題なく日本の市場に入っています。まだ小さなブランドですが、弊社で生産した1本3000円の美容液が日本のネットショプで非常によく売れているという例もあるんですよ。でも、日本の大半の化粧品メーカーには『メイドインタイランドは日本では売れない』とか『海外のモノは品質が悪い』という思い込みがある。受け付けないのは日本の消費者じゃなくて、化粧品メーカーなんじゃないでしょうか」

 アメリカ向け、ヨーロッパ向け、ときにはニュージーランド向けの専売品を作りながら、ASEAN専売品を作っている日本の化粧品メーカーがなかなか見あたらないのも気になる点だ。アジアと一口に言っても、日本や韓国と東南アジアとでは気候条件がまったく違う。肌質も化粧品に求める志向も変わってくるのだから、そろそろASEAN専売品が生まれても良さそうなものだが…。

夜明けは遠いが、眠ってはいられない

 「台湾が『メイドインジャパンだったらなんでも売れる』という特殊な市場なので、その延長線でアジアを一括して考えているのかもしれませんね。でも、それでは到底うまくいかない。残念ですが、処方の組み方においても価格の作り方においても、ここタイでは日本の化粧品会社の夜明けはまだ遠い気がします」

 そんな石橋氏の言葉を思い出しながら、どんよりとした気持ちでバンコク中心部を歩くと、目に飛び込んでくるのは着実に増えている韓国コスメの直営店だ。スキンケア、メイクアップ、ヘアケアとカテゴリーごとにブランドを棲み分けている日本と違って、韓国の化粧品ブランドは商品をフルラインで揃えている。豊富な商品点数ゆえに、1つのブランドで直営店を構成することができる。だから、消費者の記憶に残りやすい。

 一方、日本の化粧品ブランドの多くは、店を埋めるだけの点数を備えていないため、ほとんどが売り場の一画での扱いだ。食の分野では「日本」は人気だが、ファッションに関していえば明らかに韓流に勢いがある。直営店の出店攻勢で韓国が市場開拓を進めているコスメの分野もそうなってしまうのか。

バンコク市内に増えてきた韓国コスメの路面店。一つのブランドでスキンケアからメイク、ヘアケア、ボディコスメまで揃えている

 「日本の市場は縮小していますから、いずれ日本の化粧品メーカーもいまのままでは本当にまずいと気づくのでは。どこか大きな会社がASEAN専売品を作ろうと立ち上がり、本腰を入れてマーケティングした上でタイ人に合わせて処方開発するそのときが、新しい時代の幕開けになるのかもしれませんね」

 タイを生産拠点にする、消費地として開拓する、そのどちらをも狙う。いずれにしても、タイにはミロットラボラトリーズのような力強いパートナーになり得る企業が存在している。準備万端、あとは化粧品メーカーの「覚醒」を待つだけか。偏見を捨て、ASEAN市場に真剣に向き合う夜明けのときを期待したい。