「日本の化粧品メーカーは日本ありきの開発です。人種の違い、肌の違い、志向の違いを考えていないわけではないけれど、あまり意識をしていない。ずっと閉鎖的に日本で作って日本で売ってきたからですが、いまのままではグローバル市場には対応できないですね」
日本の化粧品が売れないもう一つの理由が、タイでは評価されない部分でオーバースペックになってしまうことだ。
タイに暮らしはじめて、日用品のクオリティや使い勝手に不便を感じることがよくある。シールははがしにくく、キャップは開けにくく、ボトルは持ちにくい。だが、タイの人々はさして気にしている様子もない。そこに日本の化粧品メーカーは日本と同じ高クオリティの製品を持ち込もうとする。
価格が安ければそれでもいいだろう。だが、現実には高くつく。
価格は積み上げで作ってはいけない
「例えば、チューブのキャップです。日本のメーカーは音や開き方にまでこだわって作っているので、タイで生産するにしても、固くて開けづらいタイ製キャップは使えないと判断するんですね。どうしても品質を落とせないから、結果として価格が高くなる。
先に書いたように、タイでは価格が高い化粧品もちゃんと売れる。だが、それも訴求点を狙うからこそ。評価されない点にコストを掛けるのではますます不利になってしまう。
「日本の市場だったら、容器や見た目の違いで1000円が1200円になっても受け入れてくれる可能性もありますが、タイでは無理。仮に中身が同じで100バーツ(約320円)が120バーツ(約390円)になったらもう売れません。その点、欧米のメーカーはターゲットを決め、いったん価格を設定したら、その価格を実現するために処方の改良、資材の見直しなど何でもやります。タイで作るのが無理ならインドネシアやインドでの生産も検討し、それでもダメならもう作らない。積み上げ方式で価格を作っていく日本とは対称的です」
アイシャドーが入ったパレットも、日本のメーカーは利便性を考えてブラシを付けようとするが、タイの女性の多くはマイブラシを持っている。ブラシ付きは価格が高くなるだけで、利点はゼロ。だが、ブラシをはずすようなスペックダウンに日本のメーカーはなかなか踏み切れない。
もっとも、花王やライオンなど、すでにグローバルにビジネスを展開しているトイレタリーメーカーは別だ。ユニリーバやP&Gといった世界有数の一般消費財メーカーと戦わなければならない企業はコストを重視し、その市場に合ったスペックを追求する術を知っている。ブランドイメージに左右されがちな化粧品よりも、トイレタリーはより消費者に寄り添った機能や価格が求められるためか、現地の人々の志向を吸い上げるマーケティングは徹底している。
問題は化粧品メーカーだ。良く言えば、クオリティ重視。悪く言えば、融通がきかない。日本のモノづくりこそ最高だと考え、メイドインジャパンのクオリティが受けないはずがないと思い込み、売れない理由を「価格」だと結論づけるその姿勢は傲慢にも見える。
メイドインタイランドに対する偏見は、日本国内の市場にも向けられている。
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