
ローション、洗顔料、美容液。
バンコクの町中で日本の化粧品を目にする機会が増えてきた。手に取ると、パクリでもなんでもなく、正真正銘のメイドインジャパン製品だ。
食の分野で起きている日本ブームが、化粧品の世界でも起きているのだろうか。日本のコスメがタイを席巻しつつあるのかもしれない。
そんな私のポジティブな想像を打ち砕くのは、ミロットラボラトリーズのマネージャー、石橋和明氏だ。
「正直、日本の化粧品は売れていませんね。タイ人の肌に合わないモノを売っているからです。商品を見かけることが多くなった? それは、単に扱う店が増えてきたから。いまはツルハドラッグやマツモトキヨシが進出して、店舗数を増やしていますからね。でも、タイ人に人気かというと、違います」
相手先のブランドで化粧品を生産するOEM(original equipment manufacturing)という事業の性質上、一般の知名度は高くないが、ミロットは神奈川県横浜市に本社を置く、75年の歴史を持つ化粧品業界の老舗だ。タイには1989年に進出し、現地タイ人パートナーと合弁でミロットラボラトリーズを設立した。
アジアの化粧品OEMナンバーワン
生産しているのは、化粧水から口紅まで化粧品全般、さらにはヘアケア製品、香水やベビーパウダー、制汗剤までと幅広い。相手先のコンセプトに沿って化粧品の処方や容器の形状・デザインを検討した後、試作品を経て容器に中身を充填し、相手先ブランドで製品を仕上げる。この一連のプロセスを手がけるOEMとして、同社はタイで1日100万個の生産量を誇る。
従業員が2500人いる中で日本人は石橋氏ただ一人。マーケティングも商品開発も経営もタイ人が陣頭指揮を執り、徹底的に現地化を追求してきた。業績は好調だ。右肩上がりで数字を伸ばし、昨年の売上は約200億円。自社ブランドを持たないOEMとしては東南アジアでナンバーワンの座に輝く。

近年は、OEMにとどまらず、研究開発からデザインまで化粧品のすべてを設計し、相手先に提案していくODM(Original Design Manufacturing)としての実績も重ねている。タイに進出した日系企業の中では圧倒的な成功例であり、タイの化粧品業界も知り尽くしている。それだけに石橋氏の言葉は重く響く。
「日本の化粧品は、スキンケア用もメイクアップも、どちらもタイ人に合うかどうかを考えていない。これでは売れるはずがありません。私がタイに赴任して11年経ちますが、進出しては撤退を繰り返しているのが実態です」
その一方で、タイの化粧品市場は拡大を続けている。生活水準が上がる一方で、化粧品の使用年齢が下がり、早くから化粧品を使い始める女性が増えているからだ。
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