例えば、工場内でのケガの防止だ。回転している機械に不用意に手を出せば、従業員はケガをして、生産ラインもストップする。しかし、ただ「気をつけて」と注意するだけではなかなか事故はおさまらない。対策として講じたのが、大きなケガをしたら従業員全員のボーナスをカットするという方針だ。

 「そもそもケガをしたら自分が痛くて大変だし、たとえ業績が良くても他の人のボーナスまで少なくなるから、みんなのためにもケガをしないように、と言ったら、反発はなく、むしろ皆、『こうしたらこうなる』という予測のもとに仕事をすることにはまっちゃって、効果てきめんです。もう963日、無事故が続いています」(大山氏)。

ケガをしたらボーナスカットの方針が効果を発揮し、取材時点で963日間無事故。記録を更新中だ。
ケガをしたらボーナスカットの方針が効果を発揮し、取材時点で963日間無事故。記録を更新中だ。

 年間の無遅刻無欠勤者にキャッシュをプレゼントする制度も功を奏した。2009年に2000(約6500円)バーツから3000バーツ(約9600円)に値上げしたところ、該当者が急増。いまでは従業員の約半数が無遅刻無欠勤だ。

 「5バーツの商品は手作業で1ダース入りの箱に詰めるので無欠勤がないのはありがたい。昨年は164人が該当しました。全員の名前を呼んで表彰した上で必ずキャッシュを手渡ししています。これを手間を考えて振り込みにしたのでは効果が薄れてしまいます。1人ずつ皆の目の前で渡すことが大事なんです」(松尾氏)

 安全や照明、清掃、職場全体など、働きやすくなることなら何でもいいから提案するようにという働きかけも軌道に乗った。従業員344人から寄せられる提案件数は1人当たり月間5件。ときには6件のこともある。

従業員から寄せられる提案件数は月間5件。たわいもない内容もあるが、効率や生産性向上につながる提案もたくさん集まる。
従業員から寄せられる提案件数は月間5件。たわいもない内容もあるが、効率や生産性向上につながる提案もたくさん集まる。

給与水準はほどほど、でも定着率抜群

 生産ラインをスムーズに安定的に回していくには、社員の定着率を上げる必要もあるが、この点でも同社は満点に近い。離職者数は月2~3人程度。しかも、2年を超すとその数字は俄然低くなり、辞める人はほとんどいなくなる。兄弟姉妹、母娘、夫婦で働いているケースもざらだ。

 工場があるバンプー工業団地の中で、同社の給与水準は中の上程度。にも関わらず、定着率はもっとも高く、「空きが出たら働きたい」というウェイティングリストまでできている。タイに進出している日系企業に取材をすると、タイ人従業員の離職率の高さを嘆く声がよく聞こえてくるが、同社の取り組みを知れば高い定着率も納得できる。タイ人のハートを鷲掴みにするいくつもの施策を実践しているからだ。

 社員旅行やファミリーデー、スポーツデーに社会貢献活動、カラオケ大会に誕生日会。タイの日系企業の多くが導入している催しも、ここでは一つひとつが考え抜かれ、ローカライズされている。

 例えば社員旅行。毎回、社員が何かテーマを決めると、それに沿った出で立ちで参加するのが決まりだ。同じテーマのもと、皆で揃って何かをやるとき、タイ人は異様なほどの盛り上がりを見せる。2016年のテーマは「Back to School」。小学校でも中学校でもとにかく学生服ならOK。松尾氏も大山氏もシャツに半ズボンという小学生スタイルで決めた。

「Back to School」をテーマにした2016年の社員旅行。タイ人4人、松尾社長、大山副会長、計6名の経営幹部も学生服で参加した。はい、全員社会人なのです。
「Back to School」をテーマにした2016年の社員旅行。タイ人4人、松尾社長、大山副会長、計6名の経営幹部も学生服で参加した。はい、全員社会人なのです。

次ページ 親が悔し泣き「これからがんばります」