現在、クレームは3000万袋あたりの生産量に対して1件あるかないか。

 「データを取って、作業をする人の声を直に聞いて、ミス率と比較しながら試行錯誤を重ねていった成果ですね。従業員にも『この数字には自信を持ちましょう』と言っています。いまでも時々、小袋付きの競合商品が出てきますが、長く続いていないです。こうした緻密な形を作り上げる前に『大変だ』と思って諦めていくのでしょう(笑)」(松尾氏)

 ケチャップの小袋ぐらい、と侮ることなかれ。地道で粘り強い改善活動が競合を退け、「ジャックス」を強い商品に育てたのだ。

 現在、「ジャックス」は5バーツ(約20円)、10バーツ(約35円)、20バーツ(約70円)の3種類がラインナップされている。

 タイでは大手量販店やコンビニといったモダントレード(近代流通)が増えるかたわら、地方はもちろんバンコク市内でもいまだにパパママストアのようなトラディショナルトレード(伝統的流通)が根強く残る。量を売るためには、小さな店向けの価格の安いアイテムが要る。そのために開発されたのが5バーツの商品だ。

 しかし、大山氏は単純に5バーツ商品を売り出さず、巧妙な“回り道”策に打って出た。

売り手のプライドを上手にくすぐる

 「いきなり新製品を出しても問屋が扱ってくれるとは限らない。そこで、カルビーの感謝ツアーという名目でタイ全域を回り、各地の問屋を招いて試食会を開きました。20バーツの商品(当時は筒入り)を出し、ケチャップもお皿に入れてその場で食べてもらうんです。すると皆、『これは美味しいな』『でも20バーツじゃ高いな。5バーツの商品を作ってくれよ。絶対売れるから』と言うんですね。そう言われたら、『わかりました』『作るからぜひ売ってくださいね』と返して、このやりとりを全国で繰り返しました(笑)。その上で5バーツの商品を出したら、『これは自分がアイデアを出した』と思ってどんどん注文を入れてくれたんです」

 問屋の顔を立て、プライドをくすぐる戦略で、「ジャックス」は零細小売店チャネルの開拓に成功。タイ全域に広く流通する菓子となる。

 ケチャップ付きの「ジャックス」、タイ人好みの濃い味の「かっぱえびせん」。さらには、さやえんどうを使ったスナック菓子「バンバン」。この3つを軸に、同社はタイ国内の最大手小売チェーンのセブンイレブンを含め、主だったチャネルでほぼ売られている。

小さなパパママストアにもカルビー製品は流通している。棚の中段にあるのが5バーツの製品だ。
小さなパパママストアにもカルビー製品は流通している。棚の中段にあるのが5バーツの製品だ。
タイで販売されているカルビー製品。左から「バンバン」「ジャックス」「かっぱえびせん」。一番の売れ筋はポテトスナックの「ジャックス」。
タイで販売されているカルビー製品。左から「バンバン」「ジャックス」「かっぱえびせん」。一番の売れ筋はポテトスナックの「ジャックス」。

 あとは、日々、いかにして製品を安定供給していくかだ。そのためには、生産ラインの流れをストップする事故やトラブルを未然に防ぎ、各工程の効率を上げていく必要があるが、ここでも同社は徹底的にタイに現地化したマネジメントを行っている。

 「一般的にタイ人が関心を持つのはいま現在のこと。先のことはあまり考えない。『これは放っておくと危ない』とか『これはいずれ劣化してトラブルになる』とか、先を見越して動くのが苦手です。このタイ人気質を理解した上で、工場を動かし、人事も進めていく必要があるんですよ」(大山氏)

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