扉を開けたら、店内には年端もいかない子どもたちばかりーー。

 今、中国・上海では、保育園と見まがうようなレストランが人気を集めています。店の名前は「花花姐姐(WOW WOW HOUSE)」。上海市内に2店舗を構えています。通常のレストラン営業のほかに、子ども向けの料理教室や絵本の読み聞かせ会などを常時開催。子どもの食育や交流、友だちづくりができることから、上海在住の親子が足しげく通う人気スポットになっています。

親子で利用できる花花姐姐。孤児院の子どもたちを招いた、食事会兼読み聞かせ会も定期的に開いている。
親子で利用できる花花姐姐。孤児院の子どもたちを招いた、食事会兼読み聞かせ会も定期的に開いている。

 料金は子ども用のセットメニューが約30元(450円)から、父母と子どもの3人向けセットが約200元(3000円)からで、野菜が多めの食育に適したメニューが充実しています。月1回は孤児院の子どもたちを無料で招待する食事会・読み聞かせ会を開くなど、社会貢献活動にも熱心です。日本では現在、貧困家庭向けの「こども食堂」が全国各地に広がっていますが、上海では花花姐姐が違ったアプローチで、恵まれない子どもたちに手を差し伸べているのです。

 上海ではスタイリッシュな大人向けレストランでも店によっては子連れでの入店が可能で、大人が食事中は店員が子どもと遊んでくれます。ザ・ペニンシュラ上海やフォーシーズンズホテル上海など高級ホテルもキッズイベントを積極的に開催。元々、子どもを受け入れようとする文化が、飲食店や宿泊施設で根付いています。

 また、2015年には育児バラエティ番組「パパ、どこ行くの?」(元は韓国の番組)が上海でもヒット。これは、多忙で子育てとは無縁だった父親が子どもと二人で旅に出て、旅行先で数々の難関を乗り越えて互いに成長していく物語ですが、この番組をきっかけに親子で訪れることができるスポットに注目が集まりました。

 ただ、従来はテーマパークや公園、習い事の施設などは多くあったものの、子どもが食や料理などを学べる場所は皆無でした。花花姐姐は子どもの食育の場を求めていた人たちのニーズをうまく掴み取ったと言えるでしょう。

台湾では“親子レストラン”が続々開業

 花花姐姐の本店は台湾の台北にあり、中国本土進出に際し、上海在住の台湾人が多く居住する地区に出店したという経緯があります。

 台湾でも台北を中心に、親子で楽しめるレストランやカフェが大人気。現地では「親子餐廳」(親子レストラン)と呼ばれ、「花花姐姐」のほか、「PS BUBU汽車餐廳」「Chin Goo天母親子俱樂部」「好丘Good Cho‘s」がその代表格です。

 親子で食事を楽しみ、食後は親の目の届く場所に設けられた遊び場で、子どもの発育に合わせた玩具で遊ばせることができます。価格はお子様ランチが280台湾ドル(約900円)、大人向けのアフタヌーンティーセットが250台湾ドル(約800円)と、一般的なレストランよりも100台湾ドル(320円)ほど高めの設定。それにもかかわらず、親子餐廳の人気は絶大で、店の数も年々増えています。

 少子化が進む台湾では一人っ子家庭が多く、兄弟で遊ぶ経験を持てないのが現状。そのため、親子餐廳が幼稚園に通う前の子ども同士で遊ぶ場、友だち作りの場になっています。親にとっても同世代の子どもを持つもの同士で会話し、育児の情報交換や悩みの相談、ストレス発散ができる場として重宝されているようです。レジャー施設に遠出するより、近場のカフェで子どもを遊ばせるほうが経済的であり、かつ日常的に利用できる点も「親子餐廳」ブームの背景でしょう。

ベトナムでは“闇鍋”風レストランがトレンド

 一方、ベトナムのホーチミンで人気を集めている風変わりな店が、暗闇レストランの「Noir.」です。Noir.とはフランス語で「黒」を意味し、文字通り光が一切入らない真っ暗闇の部屋でフルコースを楽しむことができます。現在、日本をはじめ世界各地で広まっている「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、暗闇の世界が体験できるエンターテインメント形式のワークショップとして有名ですが、Noir.はそのコンセプトをレストランに応用したものです。

 料理はエスニックコース(48万ドン、約2170円)、ヨーロピアンコース(56万ドン、約2530円)のいずれかを選択できます。しかし、食事中は全く料理が見えないため、日本でいうところの闇鍋状態。視覚以外の嗅覚や味覚、触覚を研ぎ澄ましながら料理を食べることになります。後には何を食べたのか、写真を見ながら答え合わせすることも可能。その非日常的な体験を求めて、多くの富裕層や外国人客が店を訪れます。世界的に人気の観光サイト「Trip Advisor」では、2000軒を超えるホーチミンのレストラン部門の中で、常に1位を獲得しています。

店のメニューには点字も印字されている。これも視覚障害者を理解するための工夫の一つ
店のメニューには点字も印字されている。これも視覚障害者を理解するための工夫の一つ

 暗闇で食事を楽しめることのほかに、このレストランにはもう一つの特筆すべき側面があります。それは店内の暗闇の中をガイドするスタッフが視覚障害者であること。つまり、視覚障害者の雇用創出と理解の場としても、その役割を果たしているのです。

 ベトナムの障害者は全人口(約9340万人)の7.8%、約730万人に上り、日本の割合(6.2%)を上回っています(出所:UNESCAP、Disability at a Glance 2015)。ベトナム戦争時に米国が使用した枯葉剤の影響で障害を負った人も少なくない。親族や友人に障害者がいる人も珍しくなく、街角では宝くじを売ったり、ギターを片手に歌を披露したりして生計を立てている障害者の姿もしばしば目にします。

 こうして接点が多い障害者を、社会全体で支援していこうとする気運が高いのが、ベトナムの国民性の特徴です。視覚障害者を雇用する暗闇レストランが生まれた背景には、そうした国民性も深く影響していることでしょう。

 本コラムでは、アジア各国の最新トレンドを発信している「TNCアジアトレンドラボ」の情報をベースに、トレンドを深掘りした記事を連載します。次回のテーマはアジアで人気の結婚式です。インドで大流行の「ドローン婚」、中国で若いカップルに浸透する「ベジ婚」など、世にも珍しい結婚式事情をお届けします。

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