フィリピンでは、昼食時間や夕食時間にショッピングモールのレストラン街に行くと、よく目にする光景があります。定額食べ放題のブッフェレストランの前に、長蛇の列ができているのです。先日も首都マニラのある人気店を覗いてみると、店頭に2列に並べられた待合席は満席状態で、20人程度が順番を待っていました。
フィリピンでは大家族で大挙してブッフェに行くのがトレンド。2列の待合席に多くの客が並ぶ
現地ではマニラに限らず、各地のショッピングモールで同じようなブッフェレストランのブームが起こっています。以前からホテルのレストランなどでブッフェは提供されていましたが、2000ペソ(約4600円)程度と料金が高かったため、庶民は気軽に利用できませんでした。
そうした中、2014年頃からショッピングモール内にブッフェレストランが次々とオープンしたのです。料金は700ペソ(約1600円)程度で、一般的なフィリピン人でも、少し背伸びすれば届く水準まで下がりました。
この料金で前菜、サラダ、中華、イタリアン、日本食、チキン、ラム肉などをシェフが切り分けるサービスなどが堪能できます。さらに、デザートでは各種ケーキはもちろん、その場で焼いてもらったクレープの生地を使ってオリジナルなパフェを作れるなど遊びの要素もあり、娯楽好きなフィリピン人の心をがっちりと掴んでいます。
ブッフェが支持されている最大の理由は、フィリピン人が家族や親戚など、身内の絆を大切にする国民性を持ち、集まって食事を取るのを習慣にしていることにあります。大勢で食卓を囲むことができ、各自が好きなものを好きなだけ楽しめるブッフェは、その習慣を体現する格好の場というわけです。
さらにブッフェ人気を後押しするのが、「誕生月の人は無料」「お年寄りは年齢分だけ割引」(80歳なら80%引き)「75歳以上は半額」など、いわば大家族消費を意識したサービスです。家族も親戚も多いフィリピンでは、毎月、誰かしらが誕生日を迎えます。そのため最近では、「ハレの日はブッフェで食事」が定番になっています。高齢者向け割引も家族、親戚での利用を促進させます。
フィリピンでは焼肉主体のブッフェ、スペイン料理中心のブッフェ、火鍋ブッフェなど多種多様な形態のブッフェが登場し、日進月歩でマーケットは拡大しています。ブッフェ人気は当分続きそうで、ビジネスチャンスが広がっていると言えるでしょう。
ハレの日にはトンカツ?
フィリピンの飲食シーンでブッフェと共に、もう一つブームになっている料理がトンカツです。
数年前、日本のトンカツに魅せられたフィリピン飲食業界のやり手実業家が、「YABU」というトンカツ店をオープンさせ、大ヒットしています。ブームに乗ろうと、さぼてんやキムカツ、銀座梅林、まい泉など、日系のトンカツチェーンが現地で続々と店を展開し、あっという間にトンカツ人気が広がりました。
フィリピンに進出した日系トンカツチェーンの「キムカツ」もブームを牽引
フィリピンでは豚肉が元々ポピュラーな食材であり、揚げ物も一般的な調理法。肉にソースをかけて食べる習慣もあり、トンカツはフィリピンの食文化にフィットしたのです。
タイミングよく、ここ数年でフィリピン人の訪日観光ビザの発給要件が緩和され、LCC(格安航空会社)が関西国際空港や成田空港に就航し始めた影響も大きいでしょう。日本への旅行者が増え、日本食を食べた経験を持つフィリピン人が増えたことも、現地でトンカツが急速に普及した要因です。
そして、トンカツもブッフェと同様、家族や親戚の誕生日など、ハレの日の食事として浸透しています。
今話題のトンカツを食べられる特別感に加え、ご飯とキャベツ、味噌汁がお替り自由であることも要因です。ブッフェと同じ食べ放題の要素があり、老いも若きもそれぞれの許容量に応じて好きなだけ食べられる。これが人気の秘訣なのです。
フィリピン人の多くが朝昼晩の食事にご飯を食べるほど米好きで、一人当たりの年間消費量が日本人の2倍の約120kgに及ぶことも背景の一つです。
揚げ物と食べ放題が好きという国民性を考慮すれば、例えば、大阪名物の串カツの定額食べ放題店もヒットする可能性があるでしょう。串カツ店であっても、米好きのフィリピン人の嗜好に合わせて、ご飯と味噌汁などをお替り自由で提供することも手です。あるいは、日本でも人気のあるデザートブッフェなどメニューを特化する方向性も有効。とにかく、家族や親戚でワイワイガヤガヤと楽しめるような形態の飲食店はヒットが見込めます。
家族愛から生まれたミニバンブームとLINEのチャットブーム
インドネシアでも大家族消費に関連して火が付いた製品があります。それがミニバンです。インドネシアでミニバンは、自動車市場の4割を占めると言われているほど定着しています。インドネシアは日本車天国で、日本車のシェアは9割以上ですが、その中でもミニバンが突出して売れています。
核家族化が進行した日本とは逆で、インドネシアは基本的に大家族主義。親戚同士で隣近所に住み、外食も一緒に行くため、3列シートで大勢が乗車できるミニバンは移動にうってつけなのです。若い夫婦も将来子供が増えた時に備えて最初からミニバンを購入する傾向があります。
一方、タイでは身内を大切にする文化が引き起こす、日本ではあまり見られない動きがあります。
日本に次いで世界で2番目に無料通信アプリ「LINE」のユーザー数が多いタイですが、LINEで最も多くやり取りする相手が、実は家族や親戚なのです。
家族や親戚の大半が入るチャットグループを作り、そこで朝から晩まで近況の報告や相談を繰り返している人たちがとても多いのです。日本でも家族でチャットグループを作っている人はいるでしょうが、親戚も含めた身内全員が入るグループを持っている人は稀でしょう。しかし、タイではそれが“常識”です。
タブレットにも、大家族で食事した時の写真を大切に保管。タイの人たちは家族を大切にする
フィリピン、タイ、インドネシアはいずれも家族、親戚との深い付き合いを重視する国々。それぞれの国で流行しているものを、同じ価値観の国に展開することは有効と言えるでしょう。例えばタイでの事象を参考に、フィリピンやインドネシアに家族や親戚とのやりとりに特化した無料通信アプリを展開したりすれば、成功する確率は高いかもしれません。
本コラムでは、アジア各国の最新トレンドを発信している「TNCアジアトレンドラボ」の情報をベースに、トレンドを深掘りした記事を連載します。次回のテーマは韓国の化粧品市場の現状です。カタツムリクリームを世界的に大ヒットさせた韓国では、最近も「入れ墨リップ」や「ヤギミルク化粧品」「冷やしコスメ」など、変わり種の新顔が続々と登場し、大人気。読めば、ここ数年の韓国コスメ市場の変遷が分かります。
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