さらに集め守っていく
成毛:改めて、科博のこれからについて教えてください。少しずつバージョンアップしているのはよくわかったのですが、全体の方向性はどうなのでしょうか。
藤野:まず、コレクションを充実させたいです。科博は440万点を超える数の標本を登録しており、上野で常設展示されているのはそのうちのごくごく一部なのですが、収蔵品の数が、海外の主要な博物館と比べると、いいものは持っているのですが、まだまだ桁違いに少ないのです。欧州と比べると1桁、スミソニアン博物館と比べると2桁違います。
成毛:ということは、スミソニアン博物館には億を超える収蔵品があるということですね。すごいな。科博はどうやって数を増やしますか。
藤野:もちろん毎年の調査研究を通じて増えていきますが、それだけではなくこういうご時世ですので、大学などの研究者が辞めるとき、手放さなければならないものが出てきて、どうしようかと悩まれることがあります。また、個人の収集家もかなりの数いらっしゃいますが、受け継がれずに失われていくケースがあります。こういったもののなかで重要なものは、ナショナルコレクションとして科博できちっと守っていかなくてはならないと思っています。
成毛:今回案内していただいたなかにも、過去の名機と呼ばれたコンピューターや、それからその時代には当たり前で、いつの間にか代替わりしていた実験機器など、企業のなかで埋もれていってしまいそうなものがたくさんありました。現場にいると価値がわからないこともありますから、そこは科博の出番です。

藤野:そう思います。さらに、今のルールの下では、新たに採集できないものもありますし、絶滅危惧種になっているものもあります。海外で標本を採集する場合にも、名古屋議定書に定められた通りに、相手国の研究機関と協定を結び、得られた成果については利益配分をしなくてはなりませんから、以前のように気軽にというわけにはいきません。

成毛:様々に環境が変わってきているわけですね。ただ、以前、つくばの収蔵庫を見せていただきましたが、もうあまり空きスペースがなかったように見えました。
藤野:はい。もう8割がた埋まってしまったんです。
成毛:もう8割! 2012年にできたばかりですよね。
藤野:ですから新たな収蔵庫を建設したいと思っていて、現在、検討中です。
成毛:そうですか。その際にはぜひ、収蔵庫を公開はできないにしても、外からでも見られるようにしてもらえると嬉しいです。
藤野:実はそれを考えていて、収蔵庫の中の様子や標本となっていく作業の過程が見学できる仕組みを考えています。
成毛:いいですね。棚に並んでいるのを、遠くから見るだけでもいいです。それだけでも、国のお宝が身近に感じられて、一つひとつが自分のもののような誇らしげな気分になるんです。「我が国はこんなに持っているのか」と。
藤野:そうやって見ていただくと、上野の日本館と地球館に展示されているのがほんの一部であること、440万点からなぜそれらが選ばれたのかなど、いろいろなことを感じていただけると思います。
成毛:上野で見られる展示物の背後に440万点があるとわかれば、それもまた新たな探検のきっかけになりますね。これからも科博は、常に進化し、探検しがいのある博物館であってくれそうです。
藤野:期待に応えられるよう努力を続けますので、進化のプロセスを多くの方と共有していければと思います。

(了)
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