無理な成長はしない

 山戸社長は言う。

 「あるテレビ番組で、一流パティシエを目指す日本人を取り上げていた。フランスの一流店に修業に行ったら、実はレシピも材料の分量も自分が作っていたものと同じだった。では、その差は何かというと徹底する度合い。そのシェフは、物事を徹底するかしないかで結果が違うことを学んだという。人と同じことをやっているようでも、それをどこまで突き詰めて徹底できるか。ここが重要だと思う」

 山戸社長が二代目社長に就いたのは今から3年前。創業者の父と違い、カリスマ性のない自分がどのように経営をしたらいいのか、当初は悩んだという。

内視鏡や風速計を使って、トイレのあらゆる場所をスタッフが検査する
内視鏡や風速計を使って、トイレのあらゆる場所をスタッフが検査する

 「坂本光司氏の『日本でいちばん大切にしたい会社』などを読み、社員の幸せを実現するという考え方が、とても腑に落ちた。社員や社会に幸せを提供する会社なら、社会に必ず必要とされるから、会社は自然に伸びていくはず。私たちのトイレメンテナンス事業の考え方も、まさにそれに合致するものだった」

 父の里志氏は、未上場企業の株式を売買できるグリーンシート市場に公開するなど、企業成長を意識していた。山戸社長も年10%成長を目指しているが、無理やり会社を大きくする気はないし、社員を疲弊させてまで大きくしたいとも思わないという。

 むしろ、自社の強みであるトイレ診断の精度とサービスの向上に努めている。月に1度のトイレ訪問時に作成する報告書では、トイレ・便器ごとに、未解決の不具合が赤字、訪問時にアメニティが解決した問題は緑字、顧客側で解決した問題は青字で示されている。

 便座下のひびわれ、便座ピンの紛失、表示シールのはがれなど、あらゆる点をチェックし、報告する。訪問は月1回のため、指摘点を顧客側が日々の清掃で実践してこそ、トイレを真にきれいに保つことができる。だから、この赤字を緑字や青字に変えるようPDCA(計画・実行・確認・改善)サイクルを回すことを顧客にも求めるのだ。

 山戸社長は言う。
 「世界中を探しても、ここまで科学的にトイレを診断し、その実行まで細かく指導するのは、おそらくうちくらいだろう。『そこまでやってどうするのか、あんたはバカか』と言われようとも、私たちは『厠道(かわやどう)』をとことん徹底する。仕事を突き詰めれば、他社と競争することもない」 

(この記事は、「日経トップリーダー」2017年11月号に掲載した記事を再編集したものです)

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