きれいなトイレはどうすれば実現できるか。里志氏は1975年に独立し、研究を重ねる。途中から息子の山戸社長も加わり、今の事業モデルを築いた。

 独自のノウハウをてこに「アメニティネットワーク」というフランチャイズチェーンを展開。現在64社が加盟する。北海道から沖縄までカバーし、韓国と香港にもサービス拠点がある。

ある施設のトイレを診断したときに発行したリポート。数値を示しながら原因を解明し、具体的な対策をアドバイスする
ある施設のトイレを診断したときに発行したリポート。数値を示しながら原因を解明し、具体的な対策をアドバイスする
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 97年には独自の「トイレ診断士制度」を設け、トイレメンテナンスの専門家養成に力を入れてきた。学科試験と実技試験から成り、例えば学科試験○×テストでは「(臭いのもとである)イソ吉草酸の認知閾値は0・04ppmである(ちなみに正解は0・0004ppm)」など難易度の高い設問が並ぶ。

 「トイレ診断士2級」は社員や加盟店従業員の90%が取得しているが、1級は30%と狭き門。最上級の資格は「トイレクリーンマイスタートレーナー」という指導者レベルだ。現在2級が76人、1級が71人、トレーナーが55人。2003年には厚生労働省に社内検定制度として認定された。

 しかし、なぜそこまで徹底するのか。山戸社長も当初、トイレのデータを集め続けながら「こんなことをやって意味があるのだろうか」と考えていたという。

ひたすらデータを取る

 あるターミナル駅のトイレについて、臭気などの数値基準を作ってほしいと依頼されたことがある。その日はクリスマスイブ。着飾った人たちでごった返すなか、山戸社長は一定間隔で何度もデータを測った。「俺は何をしているんだろう」。そんな思いが、途中、何度か頭をよぎったという。

 「しかし、人から見ればバカじゃないかと思われるようなことを地道に積み重ね、データを集めてきたから、私たちの今がある。清掃回数や芳香剤の数を増やすだけでは不十分。本当にきれいなトイレをつくりたいし、そうするとお客様も利用者も喜んでくれる。一見意味がないと思われることでも、続けていれば意味が出てくる」

 各種分析器を駆使してデータを集めても、どこまで生かせるかは分からない。しかし、それをしなければおそらく問題の本質にはたどり着けない。目先を優先するか、それとも、本質を追求するか。その差こそが「戦う経営」と「戦わない経営」の岐路ともいえる。

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