小さな会社には「競争下で生き残る」のではなく、「競争のない世界で生きる」ことが求められる。不毛な価格競争を避け、「戦わない経営」を実践している企業がある。

 商業施設のトイレメンテナンスを手掛けるアメニティ(横浜市)だ。「バカじゃないのかと言われるくらいに仕事を徹底すれば、競争相手がいなくなる」と語る山戸伸孝社長。顧客に期待以上の価値を提供し、戦わない経営を実現した。たくさんの同業者がひしめくが、アメニティの経営は一線を画している。

 アメニティ(横浜市)の事業は商業施設にあるトイレのメンテナンス。しかし、そのサービスの徹底ぶりが群を抜き、競合は実質的に存在しない。

 ビルメンテナンス業など、トイレ清掃を請け負う会社は世の中にごまんとあるが、「うちのサービス価格は他社より5倍は高い」と山戸伸孝社長は語る。

 「一言で表すなら『トイレの専門医』。医師が複数の検査で病気の原因を突き止めるように、当社は測定機を駆使し、トイレの汚れ、臭気などを根源から除去する」

原因を根治する「専門医」

 通常のトイレ清掃は、便器などを洗って外見の汚れを取り、芳香剤を置いて臭気を緩和する。

インタビューした会議室の壁には「厠道(かわやどう)」の垂れ幕がかかっていた。トイレメンテナンスを極めるアメニティの姿勢には、確かに「道」という言葉が合う(写真/菊池一郎)

 対するアメニティは臭気の濃度を検知機で調べ、発生源を特定する。さらに風速計を使って、換気の状態を確認。排水管に専用の内視鏡を差し込み、尿石のつき具合なども調べ上げる。

 そのうえで高圧洗浄器や尿石除去剤などを使って、便器の奥、裏側、排水管内、床などから汚れと臭気の発生源を取り除くのだ。

 「実は、尿そのものにはアンモニアは含まれていない。尿素が水と反応してアンモニアを作り、尿内のカルシウムイオンが、尿石となる。時間がたつほど化学反応が進み、アンモニア臭を発生させるだけでなく、尿石もつきやすくなる。化学反応する場所が見落とされていないか。それを探し出す」

 そう説明する山戸社長の口ぶりはさながら研究者。自称「トイレの専門医」もうなずける。内視鏡まで使って、トイレの臭いに立ち向かう会社は聞かない。

 アメニティは商業施設や駅、外食チェーン、病院などに月に1度のペースで訪問し、こうした細かな検査を実施する。トイレの快適さが施設のイメージにも大きく影響を及ぼすため、アメニティの存在価値は上昇。売上高はここ数年8億円前後で推移し、経常利益率は6、7%を確保している。

「トイレ診断士」を創設

 アメニティは山戸社長の父の里志氏が創業した。もともと経営コンサルティング会社に勤めていたが、あるクラブのトイレに入ってこう思った。「お姉さんはきれいだが、トイレは汚い」──。当時はナフタリンが吊り下げてある程度で臭いが気になった。