ある日山田社長は気づく。「今のやり方では、自分の店の売り上げを伸ばすことは、他店の顧客を奪うことと同じだ。取った取られたの争いは好きではない。戦いはやめよう」。
以来、他店の顧客からの注文は、あらかじめ他店の了解を得てもらったうえで受けることにした。また、広告宣伝や飛び込み営業など、一切の営業活動をしないことに決めた。
将来像と逆張りの経営へ
酒屋として、どう家業を続けていくべきか。酒販業界を取り巻く環境に目を向けると、山田社長が地元に戻った89年は、酒類小売免許の規制緩和が始まった年。いずれ審査に通れば誰もが酒類を販売できるようになる。酒屋の行く先が危ぶまれていた。

「酒屋の将来像は2つと言われていた」(山田社長)。1つはコンビニエンスストア、もう1つはディスカウントストアだ。
「もしコンビニエンスストアを選べば、祖父の代から築いた『のれん』がなくなる。しかしディスカウントストアとしてやっていけるほどの購買力はない。それに商品の価値を下げる安売りという形態に違和感がある」(山田社長)。
どちらも進むべき道ではない。そこで逆の発想をしてみた。きっかけは、中学校3年生のときに父が買ってきた糸川英夫氏の『逆転の発想』という本。「たまたま風呂場の前にずっと置いてあった。逆転の発想という言葉だけが頭にずっと残っていた」(山田社長)。
すると、答えが見えてきた。
商品を次々に追加し、利便性を追求するコンビニの逆となるのは、商品の種類を絞った店だ。また、売れる商品を大量に仕入れ、安価で販売するディスカウントストアの逆は、知られていない小さな造り手の酒を定価で販売することだ。そこに自店の活路を見いだせるように感じた。
縮小市場の商品を充実
山田社長は、コンビニやディスカウントストアなどで買える商品を捨てることにした。商品全体の95%を占めていたビール、タバコ、日本酒(普通酒)の販売だ。まずビールの値引きをやめて、その売り上げを徐々に減らし、代わりに日本の酒──吟醸酒などの日本酒や焼酎に注力した。なぜ日本の酒にしたのか。
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