社内で戦わないためには、同じ船に乗っている仲間であるという意識を持つことが大事です。創業からしばらくして、会社が安定したり、規模が大きくなったりすると、互いの関係性が見えなくなってきて、何かがあるたびに「あいつが悪い」と言い始める。

 最初は、仲間の悪口を言わないことから始めればいいと思います。それだけで随分変わります。現実に、ギスギスした雰囲気の会社は悪口が横行しています。

経営ビジョンを共有することも大切だと思います。

浜口:ビジョンはもちろん重要ですが、ビジョンを共有したからといって、必ずしも社員同士が仲良くなれるものではありません。いろいろな会社を見ていると、社員が自立していない会社は争っている。社長や上司から「頑張れ」と言われないと頑張らない人が多いと、互いの関係が悪くなる。

 そこで内発的な動機を高めることが重要になります。私の会社で実践して確実に効果があったのが、仕事はあなたの「味方」だと理解してもらうこと。仕事はつらいもので、敵のように捉えている人がいますが、本来、仕事は人の役に立つものであり、あなたの人生を豊かにすると気づかせる。

 急には変わりませんが、仕事の本質的な意味を理解できた瞬間から、自分の中からモチベーションが湧き起こってくるのが、見ていてもよく分かります。そうした内発的な動機があってこそ、ビジョンがより生きてくる。

「平和ボケ」で大変な目に

戦わない経営を、浜口さんの会社でも実践したのですね。手応えはどうでしたか。

浜口:実は途中で「平和ボケ」をした時代がありましてね。もともと、当社では起業家向けにレンタルオフィス事業を手掛けていました。今のシェアオフィスやコワーキングスペースの源流になるものをつくったんです。それが非常にうまくいって、東京都内で500室くらい展開していた。

 ところが「戦わない経営」に舵を切ったら、新しい事業に取り組もうとしても、社員が一生懸命にならない。新事業を立ち上げるのはハードなので頑張らないといけないのに、どうも頑張りきれないのです。もっとも、私自身も平和ボケというか、満足していた部分があった。

 これはまずいと思い、安定していた事業を捨てました。

レンタルオフィス事業を手放したということですか。

浜口:他社に売却したんです。事業の仕組みとブランドを売り、社員はそのまま残りました。そうして自分たちを追い込まないと平和ボケは解消しないと思った。

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