「戦わない経営」が本当に浸透するには10年かかるだろうと当時言っていました。私が伝えたいこととは少し意味が違いますが、ブルーオーシャン戦略が注目されたりと、世の潮流としてはそっちに向かっていると思います。

顧客、他社、社内の幸福

浜口さんが考える「戦わない経営」のイメージと、その実現方法はどのようなものですか。

浜口:カスタマー(customer)、コンペティター(competitor)、カンパニー(company)という3つのCにおいて、戦いがなくなるといいだろうなと考えました。戦わないというと競合他社との関係に目が向きがちですが、会社に関わる人を幸福にするには、残り2つもすごく大事なはずです。

 顧客と戦うというとイメージしにくいかもしれませんが、顧客を「攻略する相手」と捉えている会社は多いのではないでしょうか。「ターゲット」という言葉だったり、顧客を「囲い込む」という言葉だったり。「どうやって買わせようか」と考えているうちは、結局顧客と戦っているんです。

 顧客と企業は表裏一体の関係ですよね。どちらか一方では成り立たない。ならば、企業と顧客が一緒になって、気持ちのいい関係を築くためにはどうすればいいのか。具体的には、顧客がその企業のファンになってくれ、別の顧客を紹介してくれるような関係性が理想だと考えています。

顧客を攻略するという考え方をしている限り、顧客を幸せにすることはできないと。

浜口:私は経営者の人たちに「お客様のことが好きですか」と聞きます。お客様に単に商品やサービスの価値を提供するだけではファンになってくれないと思うんです。自分たちはお客様のことが好きだ、とちゃんと言えるというのが、すごく大事だと思っています。

 心理学で言われるように、こちらが好きになると、相手も好きになってくれるもの。お客様のことが好きだからこそ、もっと提供する価値を高めたいと頑張ることができる。嫌いな相手のためには頑張れない。お客様のことを好きになることが、お客様を幸せにするスタート地点だと思います。

では、他社と戦うことをやめるにはどうすればいいですか。

浜口:完全に競争をなくすことは難しいかもしれませんが、相手と重複しない場所は必ずあると思っています。他社と同じものを提供している限り、お客様から見たら、どっちでもいい存在でしかなく、相対的な価値は下がる。

 そうなると泥試合になり、価格がどんどん下がっていきます。それでは、どちらの会社も幸せにはなれない。とにかく少しでもいいから、自社のポジションをずらしたほうがいい。

 立ち位置を整理すれば、ここをずらすと実はどの会社も手掛けていないし、ニーズもあるという場所は必ず見つかるもの。例えば焼き鳥店なら、普通は男性客を想定しますが、女性客向けの焼き鳥店があってもいいし、焼いているスタッフが女性でもいい。

 この業界はこういうやり方です、とステレオタイプで考えることをやめれば、戦わなくても済む場所が見つかる。スポーツは決まったルールの中で競いますが、経営はルールそのものを変えられる。自らの意思で土俵を変えられることが経営の面白さなのです。

仕事は「味方」である

最後のCである、会社と戦わないとはどんなイメージですか。

浜口:社員同士がけんかばかりしていたり、給湯室で同僚の悪口を言っていたりとか、そういうことは日常的にあると思いますが、そんな状況で仕事をしていたら、幸せにはなれないと思います。馴れ合いはだめですが、チームワークが良くて、ストレスが少ないに越したことはありません。

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