人事評価制度のつくり方

「ビジョン実現シート」をもとに、全社員それぞれの今の仕事量やレベルを把握し、自社にふさわしい評価基準を定めたうえで、詳細な評価項目を作成することになります。

 評価項目には、次の4つの区分があります。

(1)業績項目 数値結果によって評価可能なもの

(2)成果項目 業績に直結する重要な役割や仕事に関するもの

(3)能力項目 実績・成果の実行・実現のために必要な能力、知識、資格に関するもの

(4)情意項目 仕事に対する考え方や姿勢を明確にしたもの

 このうち、(1)から(3)までは、自社の業績目標や仕事内容、スキルの内容などに応じて決めます。

 私が強調したいのは(4)の情意項目です。情意項目は、明確な基準を設けることも、基準に従って仕事を実践することも、難しいと一般には考えられています。しかし、情意項目こそ、会社のビジョンを全社員に浸透させ、また社員みんなの幸せを実現するためにいちばん重要な項目なのです。

 特に、女性が活躍できる会社を目指すのなら、情意項目の部分に力を注ぐべきです。情意項目は、「このような人間に、ぜひなりたい」という、女性の心に強く訴えかけることが可能な部分だからです。

 なぜ、そう言い切れるのでしょうか。先ほど「ビジョン実現シート」の抜粋を紹介したクライアント企業を例にして説明しましょう。

 同社の行動理念は全部で7つあるのですが、6番めは「おもてなしの心でお客さまに接します」、7番めは「元気で明るく、心を込めた挨拶をします」というものです。ひと言でいえば、「おもてなしの心」を持つということです。

 「おもてなしの心」に関する情意項目の目標、すなわち仕事に対する姿勢の要点として同社が挙げているのは次のようなことです。

「忙しいときや閉店間際の時間帯であっても、お客さまに対して快く対応できていたか?」
「困っていたり、迷っているお客さまに率先して声かけをし、対応できていたか?」
「お客さまへの挨拶を徹底し、笑顔で対応できていたか?」

 こうした目標は人の心の奥深くに訴えかけてくる性質のものです。周りとの協力的な姿勢を大切にすることや、困っている人を優先して助けること。こうしたことは、ほとんどの女性にとって「人としてあるべき姿」と映ります。ですから、「このような人間に私はなりたい」という気持ちが自然とわきおこってくるのです。

 情意項目に沿って女性が取り組んでくれることは、当然のことながら会社の理念に沿って行動することになるのですから、願ってもないことです。

 自己評価をするときに、目標を達成していたかどうかについて具体的な内容を書かなければなりません。「このような行動をしたので、私は自発的に仕事に取り組めていた」と、上司に示さなければならないのです。

 目標をきちんと頭に入れて常に意識的に行動しなければ、自分の行動を具体的に報告することはなかなかできません。つまり、常に経営理念に基づいた行動をする力が身につくことにつながります。

 このように「ビジョン実現型人事評価制度」では、評価の対象となる行動をしっかりと実践することを通じて、評価項目と経営理念がダイレクトにつながる仕組みになっています。特に情意項目は、みんなの心が一つになり、大きなベクトルとなって会社を成長へ導く重要な役割があるといえるでしょう。

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