異なる意見に興味を持って耳を傾ける(写真はスイスIMDのクラス風景)
異なる意見に興味を持って耳を傾ける(写真はスイスIMDのクラス風景)

河田:以前、将棋の故米長邦雄永世棋聖が、「若い棋士の感性を知らなければならない」と30歳近く年下の若い棋士だった羽生善治名人たちに教えを請い、タイトルを獲得したエピソードがあります。

高津:その姿勢が、今の時代のリーダーの「本当の学び」につながりますね。

 今年まで仏・LVMHグループで時計部門のトップを務めたジャン=クロード・ビバー氏の話をしましょう。

 彼は、タグ・ホイヤーのCEOを兼任していた際、早速アドバイザリーボードのメンバーを組成しました。メンバーの年齢層はなんと14~18歳だったとのこと。中学生や高校生に「時計に期待することは?」などと定期的に問い続けてきたのです。

河田:彼らの話にきちんと耳を傾けることが大事です。たとえどんなにつらいことを言われても、どんなに頭に来ても聞いていることが大切なんです。

「ピカソは浅い」を許す安心感

高津:そうそう。そこに安心して思ったことを発言できる土壌があるかどうか。こうした「心理的安全(psychological safety)」を担保できるかが、いわばイノベーションが起こるかどうかの分水嶺になります。

 IMDではこうした「セキュアベース・リーダーシップ(secure base leadership)」を研究、指導しています。リーダーがチームの安全基地(セキュア・ベース)となり、メンバーの才能や意欲、想像力、エネルギーを覚醒するリーダーシップ論です。

 簡単な例を挙げましょう。

 身内の話になりますが、先日、小学生の息子とある絵画展に行きました。展示されているピカソの絵とブラックの絵を見て息子がこう言った。

 「ピカソは原色中心でなんだか浅いって感じがする。シックなブラックの絵のほうが好きだ」と。ピカソが浅い……(笑)。もちろん芸術鑑賞の定説から言えばどうかと思います。

 もし、「ピカソが浅い、だって?何を言っているんだ!」などと言えば、この瞬間、息子の心理的安全は崩れてしまう。そうではなくて、「へえ、そう感じるんだ、面白いね」、と言ってあげたり、「浅いってどういう感じなの」「ブラックの何が好きなの」などと聞いてあげたりすれば、彼も自分の感じていることを言いやすくなるのです。

 実際彼は、嬉々として色々な絵画評を始めました。楽しい時間でしたし、彼の観察、非常に面白かったです。

 合っている、間違っているは二の次。彼が思ったことを口に出している、出せている、ということが尊い。大人も、社内外の会議やビジネススクールの授業で実践できたら、学習や思考の質はすごく高まるし、人間関係もよくなるはずです。

次ページ リーダーは過去の業績で今の地位に