特に女性は、規範や規定に関しては「守るべきものだ」という意識が強いものです。「決まったことは守らなければならない」という気持ちがあまりに強いと、自分の要望を言い出しづらくなります。特に人事評価制度は、会社の決め事で従わなければならないというイメージがある代表的なものでしょう。

 それを、経営者の側からこんなふうに言われたら、彼女たちはどう感じるでしょうか。

「この人事評価制度は未完成だから、トライアルのうちにどんどん改善点を出してほしい」
「社員全員で、評価制度をつくり上げていこう」

 女性たちは、改善案を伝えることが自分たちに求められているととらえ、安心して自分の要望を出してくれるようになります。結果、彼女たちがもっと働きやすい会社をつくることができるのです。

誤解5 「不満、反発が出たから悪い制度だ」

 新しい仕組みを入れると、必ずといっていいほど不満や反発が出てくるものです。しかし、社員からの反発があまりに多いからといって、「これはうちの会社には合わない」と改革を諦めてしまっていては、女性が活躍できる会社を実現することはいつになってもできないでしょう。

 反発は、改革を阻害する要因ではありません。むしろ、不満や反発が出たら、会社を良い方向に変えていくための好機ととらえるべきです。不満は往々にして新しい制度が運用されたことによって生じたものではなく、すでにあったものが表面化したものです。隠れていた不満が表に出てきたことを喜びましょう。不満が明確になって初めて、対処のしようがあるのですから。

リーダーこそが試される制度

 私の提唱する「ビジョン実現型人事評価制度」は、職場のリーダーこそが試される制度です。自分自身は数字をあげていても、会社の発展のための新しい戦略などに積極的に取り組まなかったり、部下の育成をきちんと行わなかったりしたリーダーは、評価が低くなるためです。

 その評価を真摯に受け止め、成長のチャンスととらえて前向きに取り組んでいくか。評価に納得せずにそのまま変わらず、自分のやり方を貫き通すのか。

 リーダー自身が、「今後、この会社で、この社長のもとで、ビジョンを共有して働いていけるか」という、生き方にも関わる難題を突き付けられる瞬間でもあります。

 経営者がやるべきは、不満を恐れて改革を引っ込めることでも、不満を黙殺することでもありません。制度の目的を正しく理解してもらうために社員に働きかけることです。全社員が目的を一つにし、ベクトルを合わせて邁進していこうとしているのだということを確認できれば、不満は解消していきます。

 そして、不満自体は会社の成長のために必要な声として、きちんと受け止めなければなりません。これまでのことを考えてみてください。きっと、社員からの不満が出ない代わりに、改善案も聞かれなかったのではないでしょうか。社長と社員との距離は遠く、時折話すことがあっても、表面的な話しかできなかったのではないでしょうか。

 反発は、理解の糸口です。社員の気持ちを十分に解きほぐし、お互いに理解し合える関係性を築けるよう、不満に耳を傾けましょう。

 その不満や反発を活かした評価制度へと、徐々に近づけていけばいいのです。社員の納得度が高まり、「会社は自分たちの意見をきちんと聞いてくれる」という気持ちを、社員に芽生えさせることができます。

(この記事は書籍『なぜか女性が辞めない小さな会社の人事評価の仕組み』をもとに再編集しました。編集:加古川群司)

日経BP社は、女性が輝く会社づくりのために著者が書下ろした『なぜか女性が辞めない小さな会社の人事評価の仕組み』を発行しました。人事評価制度を通じて社員と経営者のコミュニケーションを深めることがどれほど女性社員の定着と成長をもたらすか。本書は小さな会社で働く女性社員たちが成長していく実際の物語で、それを具体的に示します。
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