単に格闘技ということでは自己投影まではできません。格闘そのものをまねするのは難しいですからね。レスラーの物語を提示して初めて、「あいつには負けたくない」などの気持ちに感情移入できるのです。

 今まではこの1時間50分の部分を伝えず、ラスト10分のすごさだけでお客様を集めてきました。それを変え、2時間丸ごと提供するようにしたのがブシロードです。

 もともとカードゲームなどを制作しているので、一人ひとりのキャラクターをどう生かすかといったことやストーリーテリング(事実の提示ではなく、物語で伝える)が得意分野なんですね。これをプロレスに応用したことが成功要因の1つだと思います。

マニア向けにしない

成功要因の2つ目は?

メイ:コアターゲットをリセットしたことです。とかく企業はコアターゲットに絞って、マーケティングをしがちです。でも現在のコアになっている顧客が将来的にもそうであるかは別問題です。

(写真:稲垣純也)
(写真:稲垣純也)

 コアターゲットはどんどん年齢を重ねていくので、気が付くと市場そのものがなくなってしまいかねません。このコアターゲットをリセットする勇気を持つことが、どの分野においても非常に重要だと思います。

 5、6年前まで、プロレスの一番のコアなファンというと40代、50代の男性でした。12年以降は、女性と子供に注目しました。当初、来場者に占める女性の割合は1割いたかどうか。今、我々の試合を見に来る人たちの4割が女性。しかも20、30代が多くなっています。1割が12歳以下の子供。5割が男性。非常にいいバランスです。

なぜうまくリセットできたのですか。

メイ:男性と女性、子供では注目するポイントが違います。男性は技や試合そのものに関心があるという人が大半。女性はそれも見るけれども、レスラーのビジュアルやキャラクターを重視します。

 一方、子供は、いわば仮面ライダーの実物を見て「わあ、すごい!」と思う。格好良さや強さに引かれているのだと思います。このように応援したくなるポイントが三者三様なのです。

 こうしたいずれの層にも訴求するには、レスラーの多様化が重要になります。

 今、年間参戦選手は70~80人います。外国人選手と日本人選手が半々。パワーで戦う選手もいれば、テクニカルな関節技が得意な選手もいれば、空中殺法が上手な選手もいれば、ちょっとコミカルというか反則を使って展開する選手など、実に幅広い。さまざまな選手がそろっていて、どのファン層にも応えられるのです。

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