働き方改革が声高に叫ばれている。とはいえ、それは大企業だけに許される“ぜいたく”で、中小企業が休みを増やしたり残業を減らしたりすれば、売り上げも利益も減って経営が立ちゆかなくなると考えている経営者は多いはずだ。

 しかし、ここで紹介する2人の中小企業経営者は、「休みを増やしても何も損はない」と口をそろえる。本当にそうなのか? 2人の経営者に率直な疑問をぶつけてみた。

吉原精工(神奈川県綾瀬市) 吉原 博会長
ワイヤーカット加工専門会社。金属部品などを専用機械で加工する。吉原会長が大手電気機器メーカーなどで10年間勤務した後、1980年に創業。社員7人。社員の肩書を全員「部長」にするなど経営はユニーク。2016年6月期の売上高は1億4300万円。
二六製作所(神戸市) 八田明彦社長
永久磁石を専門に扱う商社。1940年、八田社長の妻の祖父が創業。大学卒業後、20年間ハウスメーカーに勤務。2002年に社長に就任した。本社は神戸港を見下ろすビルの7階。社員11人(女性7人)。2016年12月期の売上高は2億4000万円。

小さな会社で休みを増やしたり残業を減らしたりすると、儲からなくなるのでは。

吉原会長:「3割時短すると、3割売り上げが減る」と思っている経営者がいますが、それは違います。社員のやる気が変わるので、そういう単純な計算にはなりません。休みを増やしても何も損はない。

吉原精工では12台のワイヤーカット加工機が稼働している。金属を細いワイヤー線で放電しながら加工する(写真:鈴木愛子)
吉原精工では12台のワイヤーカット加工機が稼働している。金属を細いワイヤー線で放電しながら加工する(写真:鈴木愛子)

 私が週休2日や残業削減を考えたのは1990年頃。「3K職場」と言われて若い人が来なくなったからです。それまでの“ブラック状態”を改め、残業は午後7時か午後10時まで、週休2日、年3回10連休取得する体制を始めた。

「金がないなら、時間をくれ!」

 ところが2008年のリーマン・ショック後に倒産の危機を迎え、社員から「金がないなら、時間をくれ!」と迫られた。それで役員を含め給料は一律30万円にし、残業はゼロにしました。

 以来、この体制を続けていますが、リーマン・ショックの後は、ほぼ増収増益です。11年からは年2回、1人各100万円のボーナスを支給しています。なぜ業績が良くなったかいうと、各社員が効率よく働くようになった成果です。例えば10時間かかっていた仕事を8時間でできる人が育った。

 会社は月~土曜日の営業ですが、社員をA、B、Cの3つのグループに分け、Aは土日、Bは日月が休み。Cは午後5時~翌午前1時まで週休3日で働きます。

 Cは現在1人。加工に時間がかかる仕事や、急ぎの仕事は、Cの人に対応してもらっています。

午後6時には社長がオフィスに鍵をかける

八田社長:02年に私が社長を継いだときと比べ、人員は約1.5倍増えただけなのに、磁石の売り上げは2.5倍近くも増えました。

 社長になってからすぐ、働き方改革に取り組み始めましたが、08年、オフィスを滋賀県から神戸・元町の今のビルに移したことを機に、さらに徹底したのが効いたのです。

 週休2日で、残業や休日出勤はなし。午後6時には私がオフィスの電気を消し、会社の鍵をかけてしまいます。年間休日数は123日、月の平均稼働日は21日です。

 とはいえ、休日出勤や残業は厳禁と決めないように気をつけています。どうしても休日出勤や残業で仕事を進めたい社員もいる。いつの間にか仕事が溜まることは誰しもあるはずです。それを「絶対ダメ」とすると社員を追い込んでしまい、逃げ場をなくすと思いました。その場合は事前に申請してもらいます。

 ただし、何の仕事をするのかなど、細かく問いただすようなことはしません。例外として認めつつ、社員が、自分なりに仕事の効率化に取り組んでもらえればいい。もちろん、さじ加減は難しいです。

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