こうした取り組みで、労働時間はみるみる減った。改革に着手してから半年後の16年4月、いよいよ旅館業界では珍しい完全週休二日制を導入し、年間休日を105日に増やそうと打って出る。

切り札はマルチタスク

 山口専務が完全週休二日制実現のための切り札にしたのが、複数の業務を掛け持ちする「マルチタスク」だった。

 社員にはこう切り出した。「休日を今より30日増やす。給料はそのまま。そんなうまい話があるかって? ないよね。俺にはそんな手品みたいなことはできない。だから今の仕事に加えて、別の仕事も少ししてもらえないか」。

 並行して、山口専務は旅館業の現状やなぜ働き方を変えなければいけないのか、最終的に目指す方向はどこかなど、社員が納得するまで何度も繰り返し説明した。

 「お給料が変わらず、休みが増えるのはうれしかった。ただ今までの業務に加え、経験のない新しい仕事をするのは不安だった」。サービス部主任の木内沙織氏は話す。

「フロント以外の仕事をするようになって、今まで接する機会がなかったスタッフとのコミュ二ケーションが増え、フロント業務もやりやすくなった」と木内氏(写真:山岸政仁)

 「とりあえずやってみよう。もしもうまくいかなかったら、元に戻せばいいから」。山口専務は食事時間の2部制や予約確認電話の廃止のときと同じように、社員を説き伏せ、休み方・働き方の改革をスタートさせた。

 最初にマルチタスク化への移行の障害になりそうなルールを修正した。北陸地方で50年以上続いていた独特の「奉仕料制度」がそれだ。団体客の世話をする仲居にのみ適用されていたもので、他の社員と異なり、ほとんど歩合給で支払われていた。

 この併存していた賃金制度を16年に一元化。仲居以外のスタッフが宴会の仕事を手伝ったり、仲居がレストランで働いたりするようになった。

 また宴会、フロント、レストラン、料亭など担当する職務により縦割りで部署が分かれていたのを「サービス部」に一本化した。それまでは客数にかかわらず、各部門で働く社員はいつも同じ人数。客数に合わせてシフトを調整したり、違う部署のスタッフが垣根を越えて手伝ったりすることがなかったため、実際の仕事量よりやや多めの人員を配置していた。