普段考えないことをじっくり考えながら干しブドウ一つ食べることができた今の状態が、マインドフルネスです。私たちは普段、マインドフルでないことが多い。例えば朝、犬の散歩をしているときでも、今日しなければならない仕事の内容を考えたり、将来への不安を感じたりして、その瞬間に集中できていない。目の前の散歩に純粋に集中している犬のほうが、恐らくよっぽどマインドフルです。過去や未来はいったん横において、今この瞬間に集中する。そうすれば不安や恐れから解放されます。
マインドフルネスと瞑想は同じ意味と捉えている人がいます。両者は密接に関わり合っていますが、それぞれは異なります。瞑想はマインドフルになるための道(方法)の一つに過ぎません。
あなたは一体何者なのか
ではここで、マインドフルネスの入門となる、もう一つの練習をしてみましょう。2人1組になってください。そして、片方の人が相手に「Who are you?」と尋ねてください。そうしたら、聞かれた側は、「私は~です」と答えてください。今度は聞かれた側が「Who are you?」と投げ掛けてください。そして、最初に質問した側がそれに答える。この質問だけをひたすら交互に繰り返してください。質問への答えは日本語で問題ありません。イメージとしてはこうです。

Aさん:Who are you?
Bさん:私は北海道出身です。
Bさん:Who are you?
Aさん:私はスタンフォード大学の教師です。
Aさん:Who are you?
Bさん:私はカリフォルニアの青い空が大好きな人間です……。
では、皆さんで取り組んでみてください(10分程度、2人一組で実践)。
いかがだったでしょうか。今感じていることを皆さんで共有してみてください。
「相手の人柄をよく知ることができる。昔と今の自分が違うと改めて感じた」
「自分のことを振り返るのが久しぶりで、いい機会になった」
「話せば話すほどお互いに似ている部分があって、身近に感じた」
「相手との共通項を探して自分を振り返っている印象があった」……。
実は、この練習を通じて、今までにない自分に対する見方を発見してほしかったのです。Who are you?と問い掛けられると、はじめのうちは自分の職業や家族構成、幼い頃から両親をはじめ周囲の人から言われた自分の性格(活発、騒がしいなど)などを答える人が多い。ところが、繰り返し問い掛けられて答えているうちに、「あれ? 今まで思い込んでいた自分の性格と本当の自分の性格は違うのではないか」など新たな発見をする場合がある。具体的には子供の頃に感じていた喜びをふっと思い出すとか。反対に「実は自分は意外に臆病だ」のマイナスの部分に気が付くこともある。そうすると、ものの見方や考え方が変わる可能性がある。それを期待したのです。
西洋では、自らが抱える悩みや不安や心の傷などを忘れたり、克服したりするために「(能動的に)自分を変える」という発想になりがち。一方、東洋的発想のマインドフルネスの場合、自分を変える必要はありません。自分の弱さも含め、まずありのままを受け止める。その上で新しいものを生み出していこうとします。どちらが良い悪いということではなく、バランスが大切だと思います。
自分にとって困難な状況を受け入れて次に進もうとする姿勢を示す象徴的な日本語が、「仕方がない」です。従来、この言葉は諦めを示すものとして、否定的に捉えられていました。しかし最近では、あるがままの現実を受け入れて次に向かおうとする入り口として、日本人はこの言葉を使っていると私は感じています。
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