世界のICT(情報通信技術)をリードする米シリコンバレー。そこからAI(人工知能)革命という新たなうねりが起きつつある今、日本の中小・ベンチャー企業は、どう受け止め、どう対応すればいいのか。それを探るため、日本の中小企業経営者らが7月23日~27日、スタンフォード大学の専門家や現地で働く日本人社員などのもとを訪れた。主催は、シリコンバレーに拠点を構える日系企業で、米・スタートアップ企業と日本の中小企業の協業を支援する、ブリリアント・ホープ。日経トップリーダーと日経BP総研 中堅・中小ラボが企画・協力をした。ここではそこで語られた米シリコンバレーの最新動向を複数回にわたって紹介する。4回目は、米国と東アジアの学生の相互理解を深める国際教育NPO法人のVIA(ボランティアズ・イン・アジア)代表の石田一統氏が、イノベーションを生み出す思考法として現地で定着している「デザイン・シンキング」の中身について、中小企業経営者に体験学習形式で解説した様子をリポートする。

 皆さん、はじめまして。私はVIA(ボランティアズ・イン・アジア)という団体で働いている石田一統(かずとう)と言います。VIAは、1963年にスタンフォード大学の学生らが立ち上げた非営利の国際教育機関です。東アジアの将来性を見越して、ボランティア活動と異文化交流を通じて米国と東アジアの相互理解を深めたいと考えて発足しました。

 当初は米国から香港やベトナム、インドネシア、日本などのアジア各国・地域に英語講師を派遣したり、現地のNPO(非営利組織)をサポートしたりするといった活動が中心でした。その後、スタンフォード大学などの協力を得てVIAが企画した教育プログラムを東アジアの学生に米国で提供するサービスなども手掛けるようになりました。現在、私はVIAの責任者として、米国や東アジア各国を行き来しながら、さまざまな体験学習プログラムを紹介しています。

 実は私自身が日本の大学に通っていたとき、VIAの異文化交流の教育プログラムに参加し、非常に視野が広がった経験があります。同じ思いを東アジアの人たちにしてもらいたいと考えて、VIAで働くことを決めました。

「デザイン・シンキング」はシリコンバレーの共通言語

 今日は皆さんに、イノベーションを生み出す思考法として、ここシリコンバレーで定着している「デザイン・シンキング」(以下、デザイン思考)とは何かを体験学習の形式で紹介したいと思います。

 もともとデザイン思考は、製品デザインを生み出す手法として広く採用されていました。それをスタンフォード大学の「Hasso Plattner Institute of Design」(通称Dスクール)が、新しい事業を生み出す思考法として取り入れて学生に広めたことで、シリコンバレー共通の「型」として定着していきました。

石田一統(いしだ・かずとう)氏:写真右の人物
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、メーカーの海外営業部勤務、ハワイ大学東アジア言語文学部修士・博士課程を経て、2005年からVIAに所属し、16年から組織代表として東アジアの学生などにさまざまな体験型学習プログラムを紹介している。

 デザイン思考には大まかに共感、問題定義、創造、プロトタイプ、テストという5つのステップがあります。

 まずは共感(Empathize)。これは何か社会問題に取り組みたい、誰かを助けたい、どこかのコミュニティーを助けたいと思ったときに、まずその対象者の思いをよく理解しましょうというプロセスです。具体的には、対象者のコミュニティーに長時間入り込んで一緒に時を過ごし、話を聞きながら気付きを得ることが基本です。

 そこでさまざまな気付きを得たうえで、自分が取り組むべき問題が何かを整理して、定義付けます。これを問題定義(Define)と呼びます。すべての問題を一気に解決するのは難しいので、テーマを絞り込んで明確にするわけです。ここがしっかりしていないと、結局、事業を通じて何をしたいのかがぶれてしまいます。

 問題が定義できたら、次は創造(Ideate)。解決策を考えます。ブレイン・ストーミングのイメージです。ここでのポイントは2つ。1つはまず質より量。とにかくたくさんアイデアを出す。

 2つ目は「Yes and」のスタンスで臨むこと。創造の段階では、突拍子もない大胆な発想を次々に出すことが大切です。あまりに突飛な発想だと、すぐに周囲は否定しがち。そうではなく、「なるほど、それにさらに加えるとしたら」と肯定的に捉えるという意味です。

 そのうえで議論してアイデアをいくつかに絞って、プロトタイプ(Prototype、試作品)を作る。紙やのりなどを使った簡単なもので構いません。そして完成した試作品を助けたい人、コミュニティーに持って行って使い勝手を尋ねる。これを検証(Test)と言います。検証で助けたい人からフィードバックをもらって改善点は直していく。これを繰り返して製品化していくという流れです。