投資のスタンスは大きく2つに分けています。一つは本当に既存事業と関係のない未来への投資。どこにどんな価値があるか変わらず、不確実性が非常に高い。目的地もルートも定まっていない。ただその分、当たれば成長性が高いスタートアップ企業への投資です。これはヤマハ発動機本体からすると、非常にリスクが高くて嫌がるスタンス。成功するには5年、10年かかります。ですが、「よく分からないから投資するんです」というロジックで認めてもらっています。

 一例が、PrecisionHawk(プレシジョンホーク)というドローン(無人操縦機)とそれを活用したデータ分析事業会社。ここに投資した理由はドローンそのものの技術ではなく、ドローンの航空管制システムの開発技術に将来性を感じたからです。今のドローンには管制システムがなく、安全性を確保できていない。だから普及しない。この問題を解消するポテンシャルがあると見ています。

 二つ目は、ヤマハ発動機の既存事業と少し関わりのある事業への投資。ヤマハ発動機の持つシーズをシリコンバレーに持ち込んで公開し、一緒に技術開発してくれる企業を探して共同開発や事業開発をするイメージです。現在、4件ほどのプロジェクトが事業化しています。やはり5年、10年先まで我慢するだけというのは、本社側に限界がある。そこで、2、3年である程度成果が見込める事業開発も実施しているのです。

 代表例が「MOTOBOT」(モトボット)。米国の研究開発機関であるSRI Internationalと当社が共同開発したヒューマノイドロボット(人型ロボット)がレーサー並みの速度で、当社のバイクを運転できるようにしました。これまでのコア技術・製品であるモーターサイクルと当社がこれから注力していくロボティクスの融合のショーケースとしての意味と、車両に改造を加えずに自動運転を実現する方法による事業の可能性が主なポイントです。また、このプロジェクトを経て得られた知見や技術により、当社のメイン事業であるモーターサイクル開発へのフィードバックという狙いもあります。

米国の研究開発機関であるSRI Internationalと共同開発したバイクを運転するロボット
米国の研究開発機関であるSRI Internationalと共同開発したバイクを運転するロボット

 私の経験から言えば、既存事業の延長線上で新事業を立ち上げた後に不確実な未来への投資へ進むことは相当難しい。既存事業の「引力」が強すぎて、自由な発想ができないからです。扱う領域が近ければ近いほど、既存事業と新事業の担当者同士が利害関係でぶつかる可能性が高まり、調整が難しくなったりもします。

 これを防ぐには、むしろ順番をひっくり返したほうがいい。できるだけ既存事業から遠い分野で投資をし、徐々に既存事業に近いところに戻ってくる。このイメージのほうが、発想に制約がなくなって成功確率が高まります。

シリコンバレーでプレーヤーになるために

 正直言って最初の3年間は模索の時期でした。しかし、4年目に入った今年、ある程度シリコンバレーでの所作が分かってきたので、仕事のペースを上げています。当初は私自身と現地で採用した4人の5人体制でしたが、今年7人を加えて12人体制に拡充しました。元VC出身者など経験は私より豊富な社員ばかり。投資するかどうか、投資した後どれだけ関わるのか、投資した後も事業を続けるかどうか、こうした判断を遅くとも3カ月内以内に下して次々にチャレンジしています。短すぎると思うかもしれませんが、3カ月以上続けてしまうと、そのプロジェクトに情が生まれ、冷静な判断ができなくなります。

 シリコンバレーで成功した日本企業と言える状況にはまだありませんが、失敗は当たり前で、そこから何を学んで次に生かすのかを重視する文化はYamaha Motor Venturesに根付いてきたと思っています。

 (構成:久保俊介、編集:日経トップリーダー

シリコンバレーの最新動向を知る視察研修を実施しています
 現地の専門家の講演などを聞くことができる、シリコンバレー視察研修を実施しています。現地に拠点を構える日系企業で、米・スタートアップ企業と日本の中小企業の協業を支援する、ブリリアント・ホープが主催。日経トップリーダーと日経BP総研 中堅・中小ラボが企画・協力しています。対象者は、中小企業経営者向けの通年セミナー「日経トップリーダー大学」を受講した経営者およびその社員です。来年も開催を予定しています。ぜひご検討ください。

この記事はシリーズ「ベンチャー最前線」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。