とはいえ、大企業の中で、再びベンチャースピリットがあふれる組織をつくり直すというのは、簡単なことではありません。しかも、シリコンバレーというコミュニティーの中で仕事をする「作法」も身に付けなければならない。こちらに来て私は3年以上たちますが、最初は勝手が分からず、戸惑いました。ここからは自分なりに分かったことを伝えたいと思います。

 シリコンバレーに集まる人は少し先の未来を創ろうと真剣に考えています。繰り返しますが、未来を「探そう」ではなく、「創ろう」です。つまり、主体性がある人(Player、プレーヤー)ばかり。そのコミュニティーに入ろうとしたら、ここで自分は何を得たいのか。反対に何に貢献できるのかを明確にする必要があります。コミュニティーの中でプレーヤーであり続けるのは、ギブ・ファースト・アンド・テイクの精神を守るのが暗黙のルール。情報だけを奪って去っていく人をAudience(オーディエンス)と私は呼んでいて、コミュニティーに参加しているように見えるが実は何も貢献していない。ちなみに、純粋に視察や観光で訪れるような人はVisitor(ビジター)と呼んでいますね。

図2:プレイヤー、オーディエンス、ビジターのイメージ
Player(プレーヤー) コミュニティーの中に入り込み、新規事業開発に真剣に取り組んでいる人たち
Audience(オーディエンス) 自らの価値を提供せず、情報だけを奪って去っていく人たち
Visitor(ビジター) 純粋に視察や観光で訪れている人たち
シリコンバレーではプレーヤーにならなければコミュニティーに入れない

 残念ながら、4年前に私が来たとき、日本企業の多くはオーディエンスと見なされていて、日本人というだけで面会を断られることが数多くありました。信用を失った理由は何か。次のようなことがよく起きていたからです。

 日本の事業会社の担当者がこちらのスタートアップ企業の経営陣に会う。スタートアップ側からすると、出資してもらえるかもしれないので、スライドなどを使いながら、必死にプレゼンテーションをする。終わると、日本企業の担当者は相手に悪い思いをさせたくないので、「いい内容だった。前向きに検討したいから名刺のメールアドレスに、今日のプレゼンテーションの資料を送っておいてほしい」などと安易に答えてしまう。

 スタートアップ企業は、これを素直に受け止めて「高評価だったから、次は資本提携交渉など次のステップに行くことができるかもしれない」と期待し、プレゼン資料を送る。しかし、待てど暮らせど返事はなく、その後どうなったかを尋ねても「検討中」を繰り返すばかり。こうした事態が続くうちに、「日本企業は礼儀正しいが、テイクばかりで何もギブしない」との烙印を押されてしまったのです。

シリコンバレーでプレーヤーになるために

 では、そうした中で私はどうやって、新事業を進めてきたのか。まずシリコンバレーでヤマハ発動機が求めていることを明確にしました。投資する事業分野と投資スタンスを決めたのです。具体的には、ロボティクス、コネクテッドサービス、IoT(モノのインターネット)に関わる事業に投資することにしました。出資から事業開発の流れは次の通りです。

 上記の事業分野の中で、当社として興味があるけれど、なかなか自前では一歩踏み出せない領域。それを扱っているスタートアップ企業を探したり、評価したり、投資したりしながら、学びの機会を得ます。出資した後は、議論して仮説を立てて実行して検証したり、共同開発を実施したりしながら、事業の方向性を探る。方向性が見えてきたら、専任チームをつくって事業化への準備に入り、最初の顧客を見つけるところ辺りまでをYamaha Motor Venturesが担う。そこからさらに成長して事業規模が大きくなったら、ヤマハ発動機本体などに引き渡すイメージです。設立初年度は年間2400社のスタートアップと接点を持ち、そこから170社まで絞った上で4社に出資しました。

 スタートアップ企業との協業形態としては、出資だけして情報のみを得る場合もあれば、しっかりパートナーシップを組んで出資と共同開発などを同時に実施する場合もある。さらに技術供与など事業提携のみの場合もあるなど、様々です。ただ、ギブ・アンド・テイクの精神を明確にするため、当社のバイクやスクーターを実験に貸し出したり、ハードの制御技術をアドバイスしたりと「ヤマハは本気でプレーヤーであり続けようとしている」という姿勢を貫くように心掛けています。

 

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