ここでヤマハ発動機の業績推移を簡単に振り返りたいと思います。08年のリーマン・ショックの影響をかなり受けて当社も苦しい思いをしました。その後、社長が交代し、選択と集中、事業運営の最適化をかなり大胆に進めたおかげで今は利益体質に戻っています。売上高も利益も過去最高に近づく勢いですので、会社全体としては順調と言えます。

 ところが、新事業に目を向けると大きな問題がある。20年以上前からモーターサイクル、マリン事業に次ぐ第三の柱をつくろうと言い続けているものの、一向に結果が出ていない。しかも、モーターサイクルもマリンもほぼ市場は成熟していて、今後の成長は見込めない。そこで、今度こそ真剣に新事業を取り組もうということになった。

ヤマハ発動機の業績推移。足元の業績は好調だが……。
ヤマハ発動機の業績推移。足元の業績は好調だが……。
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 最初に取り組んだのは、これまでの活動を分析すること。そこで見えてきたのは、いままでの新事業は、ほとんどがシーズ(自社技術の種)ベース。初めに作り手側のコア技術ありきで、すべてを自前主義で進めようとしていました。

 ところが今はソフトウエア開発が進んでいて、大きなテクノロジーが次々に生まれている。そうであるならば、シーズではなくてウォンツ(潜在需要)、ニーズ(顕在需要)ベースで、自前主義でなくてある程度、他社とコラボレーションすることを重視してやるべきなのではないかと。その仮説を経営陣が立てたとき、「数年前のタクスフォースのメンバーの中に変わったやつがいたな」という話が出た。その結果、新事業開発担当の責任者候補として、私に白羽の矢が立ったのです。

新事業開発を頼まれたとき「やばい」と思った

 「今までと違う方法で新事業開発をやってほしい」と当時の新規事業担当常務から頼まれたとき、「これはやばいな」と実は思いました(笑)。また従来の二の舞になるんじゃないかと思いましたから。

 もともと当社の技術者は好奇心旺盛です。だから、「何でもやってみよう」と最初はみんな興味津々。でも、問題はその後です。ちょっと手掛けたら「面白かったね」「知見がたまったね」となるだけで、事業化するまでやり抜かない。単なるホビー集団のような状態でした。今回も業績が回復したから、また軽い気持ちで新事業に取り組むだけではないかと疑っていたのです。

 そこで、本気度を探るため、その常務にあえていくつかの意地悪な質問を私はしました。まずは新事業の意義の確認です。「会社を成長させたいのだったら、既存事業を拡大したほうが、確実に成長が見込めます。例えば、モーターサイクルやマリンでインド市場に投資するとか」。すると「もう市場が成熟していてあまり成長は見込めない。周辺事業も広げてきたから今がある」との答えでした。

 ある程度、本気度が伝わってきたので、次の質問をしました。新事業への投資の仕方です。「単なるウォンツ、ニーズだけではない、少し先の未来を考えた投資をしないと、次の成長は見込めません。ただ見えない中で一つの事業に多額の投資をするにはリスクがあります。だから、小分けにして次々投資します。そこで得た学びを生かして次の一手を決めたいのです」と。すると「ディズニーランドも入場料を払わないと、魅力あるアトラクションに乗れないからな」という冗談とともに了承されました。ここまでは予測できました。

 

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