先端技術開発で世界をリードする米シリコンバレー。そこからAI(人工知能)革命という新たなうねりが起きつつある今、日本の中小・ベンチャー企業は、どう受け止め、どう対応すればいいのか。それを探るため、日本の中小企業経営者らが7月23日~27日、スタンフォード大学の専門家や現地で挑戦を続ける日本人社員などを訪れた。主催は、シリコンバレーに拠点を構える日系企業で、米・スタートアップ企業と日本の中小企業の協業を支援する、ブリリアント・ホープ。日経トップリーダーと日経BP総研 中堅・中小ラボが企画・協力をした。ここではそこで語られた米シリコンバレーの最新動向を複数回にわたって紹介する。第1回目はスタンフォード大学アジア太平洋研究所の櫛田健児氏の講義だ。AI革命に出遅れた日本企業でも生き残り方が十分あるという。その真意とは――。

 米シリコンバレー発の先端技術をどう生かすか。このことを考えるときにキーポイントとなるのは、どこに問題があるのかを的確に見極める力。言い換えれば、問題定義力です。技術がどちらの方向に走っていっているのかをしっかり捉えておく必要がある。日本企業はこれを見誤って失敗しがちです。

 米国のペインポイント(顧客が苦痛に感じる点)と日本のそれは異なります。それを見極めないで製品開発に突っ走ってしまうと、どうなるか。日本の問題解決にはなっても、米国をはじめ、世界の問題解決にはならない。結果として待っているのは、日本だけで通用する「ガラパゴス化」です。象徴的な例が「ガラケー」。携帯電話で世界を一度はリードしていたのに、技術進歩の方向性を見誤り、アップルが開発したiPhoneなどのスマートフォンにディスラプト(破壊)されてしまいました。ほかの分野でも同じことが起きないか心配しています。

AI革命は始まったばかり

 今、シリコンバレーではAI(人工知能)という大きなうねりが生まれつつあります。ただし、革命はまだ始まったばかりです。従来のAIとこれからのAIは全く異なります。スタンフォード大学の研究者はそういう見方をしています。AIで分かること、新しいことに挑戦しようという人材が世界中からどんどん集まっています。

櫛田 健児氏
スタンフォード大学アジア太平洋研究所日本研究プログラムリサーチスカラー。キヤノングローバル戦略研究所インターナショナル・リサーチ・フェロー。NIRA総合研究開発機構客員研究員。東京のインターナショナルスクールを経てスタンフォード大学で経済学と東アジア研究を専攻、カリフォルニア大学バークレー校で政治学博士を取得後、現職に。IT(情報技術)のイノベーションやシリコンバレーの経済エコシステム、日米の政治経済、日本のITガラパゴス化現象などを中心に研究(写真:Rodney Searcey)

 シリコンバレーは、グーグルやアップル、アマゾン・ドットコム(注:アマゾンの本社はシアトルにあるが、主力の研究開発拠点はシリコンバレーにもある)など、いわゆるフロンティア(開拓者)と呼ぶべき超巨大企業と、次々に生まれるスタートアップ企業が共存しています。同じ米国でも、資本主義的な「ウォール街モデル」にはまだ陥っていません。

 ここで言うウォール街モデルとは、上場後に大量の株を取得する大型の機関投資家、いわゆる、モノを言う株主が、経営を短期的な利益偏重に引き寄せていくスタイルのことです。「業績が伸びていない」「内部留保を抱えすぎ」などと、ターゲットにした企業の弱点を指摘し、社長を交代させる。その上で、内部留保を株主配当として出させる。さらに、その企業に大量の自社株買いを促しつつ、短期的にコストとなるような研究開発費などはガンガン削って利益を出させる。こうして株価が上がりきったところで売り抜ける。当然、残った企業は残骸のようになります。これが実際に起きてしまったのが、ゼネラル・エレクトリックではないでしょうか。

 一方、シリコンバレーのフロンティア企業は、そうなっていない。アマゾンは、ガンガン投資して、そもそもあまり利益を出さない。アップルやグーグルは内部留保を大量に保有し、ここぞというときに有望なスタートアップ企業を巨額で買収したりする。なにしろ、FAMGA(フェイスブック、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾン)の5社で、米国企業の保有キャッシュ全体の約6割を占めるという調査結果があるほど、体力がありますから。