青野:働くお母さんがいかに毎日時間に追われているかを再現したんです。発熱した子供を保育園に迎えに行くため、大事な会議を欠席する後ろめたさや、子供の看護と持ち帰りの仕事で徹夜を予期したときの落胆など。批判的な意見もありましたが、すごく話題になって、インターネットで160万回も再生された。

 動画の拡散で社会認識を少しは変えることができたんじゃないかと思っています。社員の士気も高まりました。

 チームワークあふれる社会を創るため、私たちに必要な投資だと考えました。同じ職場にいる人たちが抱える課題を深く知ることは、チームワーク向上の鍵になるからです。今の社会でその一つが、ワーキングマザーだと思ったんです。儲かるかどうかは別として、稼いだ利益は理念を実現するために使うべきと考えました。

その結果、サイボウズの14年12月期の経常利益は700万円、続く15年12月期も、社員の職場環境の改善を目的に、東京オフィスを移転した費用などで、3億3800万円の経常赤字になりました。

塚越:それでも、株主が離れなかったのですか。

塚越寛氏
塚越寛氏

青野:離れた株主もいますが、驚いたことに入れ替わって、いい株主が増えました。

 チームワークあふれる「社会」を創るには、チームワークあふれる「会社」を創る必要がある。そのためには、まず私たち自身がチームワークあふれる会社になろうとしています。当社の主力事業である情報共有ツールのグループウエアは、まさにそのチームワークの形成に役立ちます。今の株主は、この方向性に賛同してくれています。

塚越:理念に基づいて長期的な視点で利益を大胆に使うという発想が鋭いですね。上場企業でそこまで率先できる人は、なかなかいません。

 そもそも理念の中に含まれる、チームワークという言葉は意味が深い。うちでは、それを違う言葉で表現していて、「一枚岩」と言っています。みんなが同じ方を向くのは大事なこと。基本的な理念は一致していないといけない。

 この話をすると、「社員の個性を尊重せず、金太郎飴のようにするのか」と言う人がいますが、それは誤解です。社員の一挙手一投足を事細かに指示して縛ることと、幸せに生きるという1つの目的に向かうことを混同している。

 経営者は、「○○のためにあの山に登ろう」と旗を掲げるのが本来の姿です。しかし、目的を示さずに「登れ」とだけ言う経営者がいたり、登り方の技術だけにうるさい経営者がいたりする。何のためにどこに登るのか答えがない。

青野:売り上げの数字だけがあるような。

塚越:幸せになるという発想が全くない。

経営理念は変えるべきか、変えざるべきか

経営理念は一度決めたら、変えてはいけないのでしょうか。変えてもいいのでしょうか。

青野:全社員の心の中が本当に変わったのであれば、経営理念自体も変わっていいと思います。ただ、経営理念を変えるのは結構な大作業なので、みんなで相談して実行しないといけない。毎年ころころ変わっていたら、会社は傾くかもしれないでしょうから。

塚越:結構、そういうケースが多い。トップが変わるたびに経営理念が変わる会社がある。これは非常に大きなロスになります。

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