伊藤:その後、文具メーカーのプラスに移り、物流などの仕事に関わりましたが、そこでも事業に失敗して億単位の損失を出したり、システム開発に失敗して何億円も失ったり、さんざんでした。

 気付きがあったのは、東日本大震災のとき。東北への物流が途絶える中で、私は独断で関西や九州方面からの注文を受け付けず、東北に全量送るように指示した。水、電池、コンロ、ゴム長靴、軍手、消毒液、レトルト食品など、被災地で必要なものばかりです。

 社内では「おまえはオーナー社長か!」と怒られ、関西や九州のお客様も激怒しましたが、どう考えてもそれが正しいし、世の中のためになると思ったのです。決断は決して合理的でなく、最後は自分の価値観に従うしかない。それが怒られっぱなしの人生を通し、44歳で初めて分かった。

仕事ができるだけの人とリーダーの違いはそこにある、と。

伊藤:新しい事業を始めるときには必ず賛成意見も反対意見も出ます。その中で突き進むには、皆には見えていないが、俺には見えているというビジョンが必要です。世の中に気付いていない人が多いからこそ、起業家や経営者が存在する意味があるのです。

中には生きざまが事業ストーリーにつながらない人もいるのではないですか。

伊藤:与えられた仕事だけやっている人はつながらないことも多いでしょうが、本来は仕事と生きざまはつながるものです。

事業家は「汝自身を知れ」

 私がビジネススクールなどで教えていることは、「汝自身を知れ」ということです。内省で自分と対話をしながら、一体何がしたいのかと問いかけていく。すると、生きざまとつながり、仕事に使命感を感じるようになった人は多い。

 そもそも僕は絶対に人は変われるものだと思っています。私は26歳でメンタルを病み、どん底まで落ちましたが、仲間に助けられて、何とか持ち直しました。

 当時は全然仕事ができず、周囲に迷惑をかけまくっていましたが、今は、それなりに成果が出てきているし、書いた本(『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』)もベストセラーになり、幸せに仕事ができるようになってきています。人は誰でも気付ける。そして気付けば、自分を変えられるのです。