田所:『HARD THINGS』の著者ベン・ホロウィッツは「Your story is your strategy」と言っている。毎日生きる中で、谷もあり山もある。その浮き沈みのストーリーこそが事業戦略のもと。ストーリーをベースに共感される事業をつくることが一番の武器になるのです。

田所雅之(たどころ・まさゆき)氏
ベーシック(東京・千代田)チーフストラテジックオフィサー。1978年生まれ。2017年、ユニコーンファーム(東京・港)を設立し、スタートアップの育成支援に注力する。同年に出版した『起業の科学 スタートアップサイエンス』(日経BP)がベストセラーに

スタートアップだけでなく、新規事業にも、そうした生きざまは必要だと考えますか。

伊藤:もちろん。新事業に進出する経営者も、その人の生きざまを事業にぶつけないといけない。新事業担当者が一社員だったとしても、その人の思いの強さが事業の成否を分けますから。

田所:ある起業家は病院の勤務医をしながら、スタートアップを立ち上げています。彼は以前働いていた病院で、急患が運び込まれても自分の専門外なので対処の仕方が分からず、手術に時間がかかって患者の命がリスクにさらされる現場にいました。

 それを解決するため医師たちのコミュニティーをつくり、セカンドオピニオン、サードオピニオンがすぐに得られる、医者向けアプリを開発しました。

 彼になぜこの事業をするのかと聞くと「医者として生涯で自分が救える命は数千人ほどだが、このアプリを使えば数十万人を救えるかもしれない」。スタートアップにも新規事業にも、事業を推し進める人の中に、こうした原体験に基づいた強烈なストーリーがあると強いのです。

44歳で気付いたこと

生きざまがそれほど重要だとすれば、人生経験が少ない若い人は不利になりませんか。

伊藤:若くて経験が少なくても一瞬の気付きがあればいい。経験の長さよりも、本人が自身の体験にどれだけダイブ(没入)できるかが問われると思います。若いときにダイブできる人もいるし、何十年とかかる人もいる。年齢は関係ないと思いますよ。

 僕自身、大学卒業後、当時の日本興業銀行に入行しましたが、落ちこぼれで、周りから怒られっぱなしでした。そして26歳のときに軽度のうつにかかり、職場で嘔吐するようになり、通勤できなくなりました。しばらく休み、職場に復帰してからも朝起きると嘔吐していました。