感動的だったのは次の朝です。ご飯に行こうと誘われて森の中200メートルくらい落ち葉を踏みしめながら歩いて行きました。その先の建物で素敵な朝食を頂いて、本当の豊かさはこういうことではないかと思いました。

 だから、都会のビルよりも、緑豊かな環境で働けたら、私も社員も幸せではないかと考えた。それで田舎の良さを生かしてつくったのが、この会社です。向こうの人は会社も大切な人生の一部と捉えている気がします。

 労働効率だけを求めて東京に一極集中するのは、人生の豊かさからするとどうかなと思います。

田舎の良さをぜいたくに生かした

青野:確かに日本は異様なほど東京に集中し過ぎですよね。うちも東京の日本橋に本社オフィスがあります。しかし東京では、これ以上広げるつもりはありません。その代わり、全国各地にサテライトオフィスを増やしていきます。例えば、実家に住む親の介護などで、地方に戻らなければならない社員がいると、その人に会社の拠点をつくらせます。仕事と家庭を両立できるように。

 ただ、うちはまだまだ田舎を魅力ある場所にできていないと、この本社を今日見て強く思いました。私は愛媛県出身で、松山市にもオフィスがあります。でも、やはり「ミニ東京化」している。「この土地ならではの魅力で、東京から人を引きずり込むぞ!」という勢いでオフィスをつくれば、自然にもっと人が集まる気がしてきました。

塚越:それほど広い国ではないにもかかわらず、過疎と過密が共存している。これはおかしい。土地の安さも田舎の良さ。それをぜいたくに生かしたのがここなのです。(続く)

(構成:久保俊介、編集:日経トップリーダー。このコラムは書籍『「いい会社」ってどんな会社ですか?―社員の幸せについて語り合おう―』の一部を再編集して掲載したものです)

塚越 寛(つかこし・ひろし)
伊那食品工業会長。1937年長野県生まれ。高校在学中に肺結核を患い、中退。3年の療養生活を余儀なくされた後、57年に木材会社に就職。翌年、子会社で事実上経営破綻状態だった寒天メーカー、伊那食品工業の立て直しを社長代行として任される。経営再建を果たし、83年に社長、05年に会長に就任した。相場商品だった寒天の安定供給体制を確立。家庭で簡単に寒天菓子作りが楽しめる「かんてんぱぱ」シリーズの開発や、医療、美容市場などの開拓などで48期連続の増収増益を達成するなど、大きな実績を上げる。「社員を幸せにし、社会に貢献すること」が、企業経営の目的という信念を持つ。それを実現する方法として、外部環境に左右されることなく、毎年少しずつ会社が成長する「年輪経営」を提唱している
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伊那食品工業の塚越寛会長とサイボウズの青野慶久社長、ユーグレナの出雲充社長が、企業経営や経営者のあり方について議論した書籍『「いい会社」ってどんな会社ですか?―社員の幸せについて語り合おう―』が発売中です。