「このやり方が成功すると確信があったから迷いはなかったが、それでも当面の売り上げ減は避けられない。かなり勇気の要る決断だった」。鈴木社長はこう振り返る。

取引先も頻繁に来社

 ただ、取引先を絞り込んだ分、以前とは比べものにならないほど濃厚な顧客対応が可能になった。近隣の狭いエリアの中で「何かありますか。今日は顔だけ出しました」と毎日、御用聞きに徹する。

「そういうことなら」と悩みを打ち明けてくれる取引先が増え、「ならばこういう機械を作れる」という提案型営業ができるようになった。結局、一時的に売り上げが減少したものの、 2、3カ月後には回復。利益率も大幅に改善した。

「距離の近さ」は、顧客からの信頼性の向上にもつながった。

「急に生産ラインが止まってしまった。大至急助けてほしい」。こんな連絡が入っても、直ちに対応できる。朝一番に連絡をもらい、部品交換が必要な案件であっても、モノによっては必要なパーツをすぐに作り、午前中のうちに納品することさえ可能だ。

 特急製作、特急納品の追加料金を請求しても、これだけスピーディーな対応なら、取引先から感謝こそされても、不満を言われることはない。たった1カ所不具合があるだけでライン全体が止まってしまうのが製造業だ。そこに張り付く人々を遊ばせることにもなる。それを考えたら、多少の追加料金など安いものだ。

「1週間後の納品でいいなら、どこの会社でもできる。半日で納品するからこそ、うちの価値がある。設計、加工、組み立て、調整などの機能を自社で持っていることも強みだが、何より顧客との物理的距離が近いからこそできる芸当」。鈴木社長はこう胸を張る。

「トラブルは、少しでも早く解決したい。ただメーカーによっては『サービスマンの予定が埋まっていて、伺うのは3日後になります』などと言われることもザラ。その点、スズキ機工はすぐに駆け付け、必ず何とかしてくれる」

 こう信頼を寄せるのは、20年来の付き合いがあるという調味料メーカー、角光(かっこう)化成(東京・台東)の影山剛久・野田工場長だ。

 顧客の元に馳せ参じる回数が増える一方で、取引先がスズキ機工を訪問することも増えた。角光化成の影山工場長も、緊急の場合、故障した部品を持ってスズキ機工まで出向くという。

 そのとき気がつくのは、工場内が整然としていることだ。スズキ機工では04年から、毎朝30分間、全社員で工場の掃除と整理整頓をすることを日課としている。

スズキ機工を訪れた顧客は、工具が整頓されていることに感心する(写真/菊池一郎)

「お客様が頻繁に来社される以上、工場自体が一つのショールームだと思っている。環境整備が行き届いた工場を見てもらうだけで、取引先からの信頼感が増す。特に食品メーカー向けの機械を多く手掛ける当社ならなおさら重要」。鈴木社長はこう説明する。

思わぬ副産物

「片道1時間以上の顧客の仕事は受けない」という戦略の副産物はまだある。頻繁に御用聞きに行くことで、今まで以上に広い情報が集まるようになったことだ。顔なじみになるほどお客様はいろいろなことを教えてくれるという。

 そうした顧客の生の声から、生まれた新規事業もある。12年に発売した、機械の摩擦を長期間抑えられるという高性能潤滑剤の「ベルハンマー」はその1つ。摩擦が原因で顧客の機械に不具合が生じる例を山ほど見聞きする中から開発がスタートした製品だ。