
「当社から片道1時間以上かかる場所にあるお客様からの仕事は、お引き受けしません」。産業用自動機械の設計・製作を手掛けるスズキ機工(千葉県松戸市)は、自社の事業戦略をこう掲げる。
車で1時間以上かかる企業からの仕事は丁重に断る。移動時間が1時間以内の顧客なら、密接な関係を構築することができ、ライバル企業の追随を許さない商品、サービスの提供が可能になる、というのが鈴木豊社長の考えだ。
「現在はさらに営業エリアが狭まり、移動時間は実質40分以内くらいかもしれない」と鈴木社長は話す。この非常にユニークな方針を掲げたのは2010年頃からで、ある事件がきっかけだった。
図面を盗まれた
「大至急で対応してほしい」
2010年のある日、取引先の大手メーカーから大型装置の設計・製造を依頼された。懇意にしている先からの頼みとあって、鈴木社長はほかの予定をすべてキャンセルし、片道2時間半かけて先方の元に駆け付けた。現状確認や採寸の後、その日のうちに図面と見積もりを提出した。
翌日、大手メーカーから「申し訳ないが、計画は中止になった」と断りの連絡が入る。前にも似たような経験があったので、鈴木社長はそれについては大して気に留めなかった。
1カ月後、別件でまた大手メーカーを訪問したとき、鈴木社長は言葉を失った。以前、計画中止になったはずの装置が据え付けられていたからだ。
Powered by リゾーム?