営業部門が売上目標を手っ取り早く達成する近道がある。それは営業部門のリーダーが営業活動のマネジメントに正面から取り組むこと。しかし、営業部門のリーダーの多くは「営業の力は個人技」という間違った考え方にとらわれている。営業のリーダーがこの考えを改め、マネジメントの力を身につけるにはどうすべきか、数々の企業から社員研修を請け負うインソースで、営業立て直しを実現してきた同社の井東昌樹エグゼクティブ・アドバイザーが語る。
今のように消費不況が続くと、「どうすれば会社の売り上げをもっと伸ばすことができるのか」と悩んでいる会社経営者は多いでしょう。売り上げが目標を達成できていないとしたら、打つべき対策は新しい商品やサービスの開発でしょうか、それとも営業部門のテコ入れでしょうか。
たいていの場合、営業部門のテコ入れが効くと私は見ています。というのは、経営コンサルティングや企業再生の仕事を経験して、営業部門に大きな問題を抱えている会社をいくつも見てきたからです。もっと手っ取り早く売り上げ目標を達成する道があるのに、営業幹部が間違った考え方にとらわれていて、それに気づいていないからです。
「営業は属人的な仕事」という思い込み
その間違った考え方の根幹にあるのは、「営業は属人的な仕事なので、営業のやり方は営業担当者に任せておくしかない」というものです。しかしこれほど間違った考え方はありません。
いとう・まさき
東京大学教育学部卒。1990年三和銀行(現:三菱東京UFJ銀行)に入行。2010年にインソース取締役営業本部長、16年に同社エグゼクティブ・アドバイザーに就任。数多くの企業の研修の講師を務める
釣りの格言に、「一番大切なのは場所、2番目はエサ、3番目が釣り人の腕前」というものがあります。魚のいないところで釣りをしても無駄です。営業も同じこと。個々の営業担当者の能力が高ければ営業チームの売り上げ目標を達成できるわけではなくて、「どんなエリアでどの商品をどう営業するのか」というしっかりとした営業戦略を描くことのほうがはるかに大きな要因となります。
企業であれば当然できているはずの組織のマネジメントの考え方が、残念なことに営業の司令塔を務める人たちには希薄です。個々の営業担当者が単独で行動しても限界があります。そんなことは分かっているはずなのに、営業チーム全体でどうやって売り上げ目標を達成するのかということに目が向けられていません。
営業部門によく見られるマネジメント層の悪い例
- マネジャーが部下に対して目標数字のことしか言わない
- マネジャーが会議に報告するために部下の数字をチェックするだけで、部下の状況を把握していない
- 営業チームのPDCAに取り組んでいない
- 目標と実績のかい離に対する対策を施していない
- チームの数字目標があるだけで、具体的な施策まで掘り下げていない
- マネジャーが部下の長所や短所を把握せず、個別の指導もしていない
- 知識や情報をチームで共有する仕組みがない
「営業担当者一人ひとりの能力がアップすれば、チーム全体の成果がアップする」という考え方が営業幹部の間には根強くあります。一見するとごく当然のことのように思えるかもしれません。
営業チームの成果を左右するのはリーダーの器
しかし、これは誤った考えです。営業チームの成果は営業担当者一人ひとりの能力の総和で決まるのではありません。営業担当者個人の能力よりも、営業チームのマネジメントのありかたの方がはるかに大きな要因となります。営業チーム全体の能力は、そのリーダーの器以上に大きくなりません。営業幹部のマネジメント力を磨くことこそ、会社の営業目標を達成するための一番の近道です。
営業担当者全員のスキルや能力を、売り上げの成績で上位20%の「できる営業」のレベルにまで近づけようとしている会社がありますが、ここにも大きな誤解があるようです。考えてもみてください。どんな人にも得意なことと不得意なことがあり、能力の違いや性格の違いもあります。いろいろなタイプの人がいるのですから、全員を等しく上位20%のレベルに到達させるのは、目標の立て方として無理があります。人材育成の基本は、それぞれの人の個性や能力に合わせて、個別に指導するということです。
営業で成果を出すにはチームマネジメントが欠かせない
上位20%の「できる営業」の人たちは、上司があれこれ指導しなくても成果を上げていきます。チーム全体の営業の力を高めるには、むしろ残りの8割の人たちをいかに指導するかがカギとなります。彼らが成果を出しやすい社内の仕組みを用意した上で、具体的な指導をするべきです。
彼らが働きやすい社内の仕組みとは、営業チーム全体が情報を共有し、有望な顧客ターゲットのリストを用意するなどして、彼らが効率よく営業活動に打ち込めるようにしてあげるといったことです。
嘆かわしいのは、部下の営業成果の数字にしか関心のない営業幹部が多いこと。部下がどんな能力を持っているのかを把握しないで、適切な指導ができるはずがありません。
営業戦略を立てるということは、自社の誰をどんな顧客、どんなマーケットに投入するのかということ。顧客、マーケットに対し、自社の人員をどう組み合わせるかに営業の成績は大きく左右されます。営業戦略づくりの重責を担うのが営業幹部です。部下のことをよく知り、部下との仕事上のコミュニケーションがきちんとできる人でないと務まりません。
製造業の工場では、歩留まり率や原価率のデータを指標として、PDCAサイクルを回し、改善活動に取り組むのが当たり前になっています。ところが営業組織にはまだまだPDCAサイクルが浸透していません。これもおかしなことです。PDCAサイクルの習慣がないから、目標と実績のかい離に対してもなんら対策を打たないままになってしまうのです。
営業マネジメントで成果を出す3つのポイント
私自身の経験から、手っ取り早く売り上げ目標を達成するための営業マネジメントのポイントを3つ挙げておきます。1つめは営業チームとしてのPDCAサイクルを取り入れること。てきぱきと週単位で足もとの業務の進み具合をチェックするのがよいでしょう。
2つめは営業のリーダーが部下に愛情を持って接し、1人ひとりの強みや弱みを理解して個別に指導すること。人材の育成とはそういうことです。営業幹部が部下に目標の数字のことしか言わないようでは困ります。
3つめは営業チームが情報を共有すること。成功事例、失敗事例、提案のノウハウ、営業案件の情報、顧客情報などを共有する仕組みを作りましょう。そうすれば営業のメンバーが力を合わせやすくなり、大きな案件を受注するといったことにつながります。
営業幹部がすべき3つのポイント
- 営業組織のPDCAサイクルに取り組むこと
- 部下に愛情を持って接し、個別に指導すること
- 情報を共有し、部下が働きやすい仕組みを作ること
この3つは組織のマネジメントとして、どれも基本的なことです。こんな当たり前の取り組みで本当に競合他社に勝てるのかと思うかもしれません。しかし営業に限っていえば、この3つの基本的なポイントを押さえるだけで他社に大きな差をつけることができます。なぜなら、まっとうな営業マネジメントを実践できている会社はまだほんの一握りしかないからです。
(構成:加古川群司 編集:日経トップリーダー)
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会場:インソース セミナールーム(東京都千代田区神田錦町1-19-1 神田橋パークビル5階 大手町駅から徒歩8分)
定員:各回20名
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